- 日時:2013年10月18日(金)18:00~20:30
- 開催場所:東京大学本郷キャンパス 赤門総合研究棟 8階 多分野交流演習室
- 報告者:平岡章夫(国立国会図書館副主査)
- 報告タイトル
「自己決定権」に抗する人権理論の可能性―「多極競合的人権理論」の枠組みについて―(仮)
- 報告概要
「自己決定権」概念は、女性の「性と生殖における自由」や医療における「インフォームド・コンセント」の確立を求める要求のキー概念とされてきた。しかし一方では、同じ「自己決定権」に基づいて、売買春や安楽死・代理出産などを擁護する風潮も出現した。社会的弱者の地位向上に役立つと期待された「自己決定権」が、逆に機能する場面が出てきたのである。このジレンマについては多く議論があるが、大部分は「自己決定権」概念の正当性をある程度認めた上で、その制限可能性を論じるというアプローチをとってきた。しかし報告者は、「自己決定権」概念の正当性を根本的に疑う立場から研究を進め、その内容を『多極競合的人権理論の可能性』(成文堂、2013年)にまとめた。今回の報告では、まず、社会的弱者(女性・患者・生徒など)の「自己決定権」要求とされてきた内容のうち正当と思われる部分については、「平等な選択の自由」への要求として、あるいは表現の自由など政治的権利への要求として説明できることを示す。その際、「自己決定権」を肯定する議論には、新自由主義的な意味での「自己決定権」を重視する考え方と、社会的弱者の声が聴きとられる理論の構築を目指しつつも「自己決定権」概念そのものは否定しない考え方の2種類があることを指摘する。その上で、背景理論としての「多極競合的人権理論」について説明する。多元主義的な政治観をベースとした人権理論で、「政治的関係については、政治参加と公的異議申し立ての権利が保障された状態を理想として前提し、社会的関係については、社会内での各集団・各属性間について、権力関係を可能な限り平等化することを目指す理論」と定義される。報告の後半では、「多極競合的人権理論」の視点から、「自己決定権」が問題となる論点について批判的分析を提示する。たとえば、個人による自発的な「性の商品化」を「性的自己決定権」の行使として肯定した議論について、男女間の権力関係を軽視した議論として批判する。また、個人による自発的な「危険な行為」への従事を「自己決定権」の行使として承認する議論(「死ぬ権利」肯定論、代理出産肯定論も包含する)についても、社会的に劣位の集団・カテゴリーに属する人々に危険負担を集中させる恐れがあり、パターナリズムに基づく介入を否定できないことを示す。