フランスの現状と背景

2016年時点

1994 年の生命倫理法により、「他者のための妊娠 la gestation pour compte d’autrui(代理出 産)」に関わる契約は無効(民法典)、代理出産を依頼したい人と代理母になろうとする人を仲介 する行為には刑罰が課される(刑法典)。代理出産が認められないのは、人の身分(ある母親の子 どもであるということ)や人体を当事者が勝手にやり取りすることは公序に反するという理由である。これらの規定は一定の歯止めとなっていると思われるが、代理出産してもらいたい人々の一部は、 代理出産できる国─―裁判例からはアメリカ合衆国、インド、ロシア、ウクライナなど─̶で行ってい るようだ。最近まで、外国でフランス人が依頼した代理出産によって生まれた子どもと依頼した人と の親子関係は、帰国後認められてこなかった。依頼者を親とする現地の出生証書を国内の身分 登記簿に転記することや、養子縁組ができなかったのだ。しかし、2014年に欧州人権裁判所が、フランスは子どもの私生活を尊重する権利を侵害していると判断し、この判決を受けて、2015 年に 破毀院(最高裁に相当)は、ロシアでの代理出産で生まれた子と依頼男性の父子関係を認めてい る。外国での代理出産がしやすくなったと受け止められることが懸念される。

参考文献

  • 小門穂、2015、『フランスの生命倫理法 生殖医療の用いられ方』、ナカニシヤ出版。