代理出産に関する文献

生殖技術の概況

  • 神里彩子・成澤光(編)、2008、『生殖補助医療:生命倫理と法―基本資料集3』、信山社。主要な国の法整備やその経緯について書かれている。現行法の資料としては古くなりつつあるが、各国の法整備に関する歴史的事項の基本的な把握にはとても有益。

国際的な論考

アメリカ合衆国

  • 荻野美穂、2009、「代理出産の意味するもの」、『日本学報』、第28号、大阪大学大学院文学研究科日本学研究室。アメリカのフェミニズムにおける代理出産の認識枠組みを説明。
  • ケイン,エリザベス., 落合 恵子 (訳)、1993、『バースマザー ある代理母の手記』、共同通信社。(=Elizabeth Kane, 1988, “Birth Mother: The Story of America’s First Legal Surrogate Mother”, Harcourt Brace Jovanovich.)全米初の代理母としてメディアに登場し,代理出産のキャンペーンを行ったエリザベス・ケインの手記。周囲に代理出産ビジネスの広告塔として扱われた経緯や、出産後に,自らの代理出産を後悔した経緯が述べられる。ベビーM事件をきっかけに「代理母に反対する全米連合」に参加,代理出産禁止運動に身を投じる。なお本件に関するNYTimesの記事はここから閲覧できる。
  • チェスラー、, 佐藤雅彦(訳)、1993、『代理母:ベビーM事件の教訓』、平凡社。(=Chesler, Phyllis., 1988, ”Sacred Bond: The Legacy of Baby M”, Crown.) ベビーM事件の詳細な経緯を説明。
  • Anita L. Allen, “The Socio-Economic Struggle for Equality
    THE BLACK SURROGATE MOTHER”  Harvard BlackLetter Journal
    Spring, 1991 Johnson vs. Calvert 事件に関するコメント。黒人代理母が白人の子を産む点で奴隷制度との類比。ここから閲覧可能。
  • スパー、デボラ・L、椎野敦(訳)、2006、『ベビー・ビジネス』、ランダムハウス講談社。(=Spar, Debora L., 2006, ”The Baby Business: How Money, Science, and Politics Drive the Commerce of Conception” Harvard Business Press.) 米国の生殖技術マーケットの現状を中心に経済学者の視点から説明。1990年代以降、体外受精型が普及して確立した代理出産マーケットの概況を説明。現在の生殖技術マーケットの基本形が把握できる。
  • Markens, Suzan., 2007, “Surrogate Motherhood: and the Politics of Reproduction”, University of California Press. 米国の代理出産に関する政治的言説を丁寧に追い、米国内における代理出産の認識枠組みが説明される。これを読むと、日本で繰り返された代理出産言説の一部が、ほぼ米国からの輸入である事が分かる。しかし他方で日本には輸入されなかった、或いは無視された言説もあり、文化的な違いが見えるのは興味深い。
  • Charles P. Kindregan, Jr., Maureen McBrien, 2006, “Assisted Reproductive Technology: A Lawyer’s Guide to Emerging Law and Science”, American Bar Association. 2000年代前半までのアメリカの生殖技術に関する法的問題を整理した本。アメリカ国内の著名な事件の概要も解説されている。また巻末のIndexを用いて米語圏の語法を確認できる。

イギリス

  • Mulkay, Michael, 1997, “The Embryo Research Debate: Science and the Politics of Reproduction”, Cambridge University Press. IVF発明後のイギリスの議論を追った本。Warnock report への反応や胚研究に関する政治、文化的側面について。人間の生殖技術に関する問題が取り上げられる際の特徴は、この時期からかわりない様に思える。

フランス

  • 小門穂、2015、『フランスの生命倫理法 生殖医療の用いられ方』、ナカニシヤ出版。フランスの状況を把握する上で基本的な一冊。

ドイツ

  • 小椋宗一郎、2020、『生命をめぐる葛藤』、生活書院。妊娠中絶を始め、妊娠に関するドイツの状況を説明。代理出産についての章もあり。筆者は本会設立者の一人。

インド

  • Sheela Saravanan, 2018.A Transnational Feminist View of Surrogacy Biomarkets in India, Springer 著者についてはこちらを参照。

東アジア

  • 渕上恭子、2008、「「シバジ」考――韓国朝鮮における代理母出産の民族学的研究――」、『哲学』、119号、三田哲学会。韓国朝鮮において貴族が実施していた代理母制度「シバジ」の説明。近代化以降廃止された。
  • 柳原良江、2011、「代理出産における倫理的問題のありか一その歴史と展開の分析から一」、『生命倫理』21号、12-21頁。東アジアの古典的代理出産の説明。渕上恭子さんの「シバジ」に関する議論の紹介、中国の典妻、祖妻、日本の妾奉公など、かつて東アジアに存在した、子供を得る目的で女性を貸し借りする制度の説明。
  • 柳原良江、2015、「収奪と利益が絡み合う卵子提供ビジネス──使い捨てられる女性たち──」、『世界』、岩波書店。アメリカの卵子提供の現状を中心に、海外での日本人による卵子売買について。卵子提供において、卵子売買市場で明らかにされてこなかった健康リスクの可能性や、日本と米国の卵子提供の値段の違いなど。
  • Yoshie YANAGIHARA, 2019, ”What Constitutes Autonomy” in the Japanese Civil Sphere?: The Struggle over Surrogacy”, Jeffrey C. Alexander, David A. Palmer, Sunwoong Park and Agnes Shuk-mei Ku (Eds). The Civil Sphere in East Asia. Cambridge:Cambridge University Press. pp.213-233. 2000年代前半に生じた援助交際肯定論で「性的自己決定権」をキーワードに女性の商品化が進んだことにより、代理出産が日本に受容されていく文化的地ならしが行われた経緯を説明。(この内容の一部をまとめ直し、2021, ”Towards the Abolition of Surrogate Motherhood”に掲載)

「代理出産」に対する理論的分析

  • 柳原良江、2019、「代理出産というビジネス―― 経緯・現状とそれを支える文化構造」、『科学技術社会論研究』, 第17号. 79-92頁。商業化の現状と構造について説明。
  • 柳原良江, 2020, 「生殖技術における生政治の作動――その権力構造と議論に表れた概念配置の分析」、『科学技術社会論研究』、第18号、179-191頁。フーコーの生政治論を用いて、特定の階層の人に対しては女性の身体利用が免責される文化構造について分析。
  • Yoshie YANAGIHARA, 2020, “Reconstructing feminist perspectives of women’s bodies using a globalized view: The changing surrogacy market in Japan”, Bioethics, Volume 34, Issue 6. 570-577. June 2020. 日本では南アジア・東南アジアの女性を用いるのは問題視されるが、貧困女性であっても「白人」の利用は免責される文化的状況について説明。
  • Yoshie YANAGIHARA, 2021 “The Practice of Surrogacy as a Phenomenon of ‘Bare Life’: An Analysis of the Japanese Case Applying Agamben’s Theory”, Current Sociology, Vol. 69(2) , pp.231–248.アガンベンの「二重の締め出し」理論を用いて、代理母となる女性や生まれる人が、神の法からも人の法からも締め出された「ホモ・サケル」になっている構造を説明。
  • 柳原良江、2021、「代理出産における変遷――何が新しく何が多様なのか」、『家族社会学研究』、41-54頁。「多様性」の名の下で代理出産が肯定されている昨今の状況について、実際に多様性が進んでいる領域と、多様性と思われているが均質化が進んでいる領域について整理。