ドイツの現状と背景

2016年時点

ドイツでは 1989 年の「養子斡旋及び代理母斡旋禁止に関する法律」において、代理母を斡旋し たりその事業を宣伝したりすることが禁じられた。1990 年の「胚保護法」では、「出産後、その子を 第三者に譲渡する用意のある女性(代理母)に、人工授精を実施もしくはヒト胚を移植した者」は、「三年以下の自由刑〔禁固刑〕もしくは罰金刑に処する」と規定された。 禁止の根拠として、まず代理出産は「子の福祉」を害するということが挙げられる。妊娠中から母子の愛着形成が始まり、安定した関係の中で出産や育児が継続的になされることが、子どもの成 長にとって非常に重要であるとされる。「母性の分裂」は心理的にも法的にも不安定性をもたらしう る。そこに金銭や様々な大人の意図が介在すれば、子どもを育てるために望ましい環境は損なわ れてしまう。子どもが欲しいという大人の願望(「子ども願望」)よりも、「子の福祉」が優先されるとい うのがドイツの考え方である。 2010 年、ドイツ人夫婦の依頼によりインドで代理出産された子のドイツへの入国が拒否された。 日本と同様に「出産者=母」であり、その子はインド人だというのである。このケースではすでにドイ ツ人夫婦に2年間の養育実績があったので、その後の裁判によって辛うじて養子縁組が認められ たと推測されるが、その過程では「親としての資格」が厳しく吟味された。

参考文献:

  • 小椋宗一郎、2011、「代理出産をめぐるドイツの言説」、日比野由利/柳原良江(編)『テクノロジーとヘ ルスケア』、178-188頁、生活書院。
  • 小椋宗一郎、2011、「代理出産と不妊相談」、『死生学研究』15号、289-311頁、東京大学大学院 人社会系研究科。