Category Archives: 資料

依頼者・あっせん業者

公的な場で発言を実施した/している依頼者やあっせん業者の意見

依頼者

  • ふたりパパ:スウェーデン x 日本、ゲイカップルの子育てブログ
    イギリス在住時に、アメリカの代理出産を用いて子を得た事例。自らの経験に関する本を出版し、マス・メディアでしばしば発言している。
    補足)同記事の事例はしばしば誤解されるが、本ブログの執筆者は、商業代理出産の可能な地域に居住しているわけではない。2023年4月時点でもスウェーデンで代理出産は合法ではない。代理出産実施時に居住していたイギリスも、国内の無償代理出産のみを合法化するだけで、海外の代理出産を合法化してはいない。
  • 還暦からの子育て 双子ちゃん日記
    ブログ主が本ブログにて自らが「生殖補助医療のあり方を考える議員連盟」第21回(2023年2月開催)にて「代理出産」の当事者として話したことを紹介。
    補足)60歳で米国において、主にゲイカップルの代理出産を手掛けるイスラエルのあっせん業者を用いて依頼。*本ブログから、代理出産を実施した医療機関は、アーカンソー州立大学医学部の病院とわかる。同州は2017年に判例により代理出産が可能になったばかり。いったん合法化すれば外国人依頼者の増える現状が示される。

 

『こわれた絆ーー代理母は語る』

代理母たちの証言集『こわれた絆――代理母は語る』が出版されました。

ジェニファー・ラール/メリンダ・タンカード・リースト/レナーテ・クライン(編)

柳原良江(監訳)

生活書院

2022年10月25日

こわれた絆の表紙

画像をクリックすると、Amazonの本書紹介ページに行きます。

 

当会代表者が監訳を務めました。また当会の関係者が数名ほど、本書の翻訳に携わっております。

 【内容紹介】

これまで代理出産における当事者のうち、代理母や卵子ドナーの経験が語られることは、殆どありませんでした。一般的にこれらの当事者たちは、契約により事実を公にすることを禁じられているためです。

本書は代理母や卵子ドナーとなることで心や体に被害を被った方々が、自分と同じような苦しみを負う女性を増やさないよう、勇気を振り絞ってあげた声から成る証言集です。

本書に登場する代理母は、日本でも批判の多い「商業代理出産」の事例だけではありません。倫理的な問題が少ないと考えられる「無償代理出産」の事例も数多く掲載されています。無償代理出産の実施を通じて、依頼者を含め関わる全ての人々が、予期せぬ負の感情に襲われ、悩み苦しむ姿が描かれます。

原著共編者による「はじめに」や、監訳者による「解説」では、グローバル化した代理出産の実態が説明されます。男性に特化した市場の存在や、性的虐待目的で代理出産が利用された事例、無償代理出産に限定する代理出産合法化が、国外の商業代理出産利用を促進する現状が紹介されます。

「監訳者あとがき」では、グローバル市場における日本の位置づけの変化を論じています。

「解説」や「監訳者あとがき」など監訳者による書き下ろし章には、監訳者による調査研究結果も掲載されています。

たとえば厳しい条件のもと、無償の代理出産のみを容認するイギリスで、結果的に海外の商業代理出産利用が増加した事実が説明されます。またギリシャにおける無償の代理出産が、外国人の生殖アウトソーシングに利用される現状についても述べています。

日本で過去に実施された親族間の無償代理出産実施のその後や、国内で日本人女性が外国人富裕層の代理母となった事例など、日本の現状も説明しています。

今後、日本で代理出産が法的に容認された場合に、どのような問題が起こるのかを予測するうえで、重要な情報となるはずです。

 

【目次】

  • はじめに
  • 戻れない血の契約  キャシー(カナダ)
  • 人生最大の過ち  オクサナ(ジョージア)
  • 匿名はもうたくさん――私はどのようにして複数回卵子ドナーに仕立て上げられたか  マギー(米国)
  • 不完全な赤ちゃんを妊娠したら、使い捨てに  ブリトニー(米国)
  • 知る権利なし  ナターシャ(ロシア)
  • 哀しい家族のつながり──息子に再び会えるでしょうか?  オデット(オーストラリア)
  • 私の代理出産が、悪夢になったとき  デニース(米国)
  • 私は孵卵器  ナタリア(ロシア)
  • 利用されだまされ、経済的にも破綻して、打ちのめされた  ケリー(米国)
  • 代理出産が家族をこわした  ロブ(オーストラリア)
  • 止まらない心の痛み  ウジュワラ、ディンピー、サララの経験(インド)
  • からだもこころも滅茶苦茶に  マリーアンヌ(英国)
  • 代理出産はビジネスである  エレナ(ルーマニア)
  • 張った乳房と張り裂けそうな心で、独り残されて  ミシェル(米国)
  • 「無私」のドナー  ヴィクトリア(ハンガリー)
  • 善意が人種差別と憎悪に出会うとき  トニ(米国)
  • おわりに
  • 謝辞
  • 文献一覧
  • 解説 世界の代理出産の概観
  • 監訳者あとがき
  • 訳者紹介

 

出版社による本書紹介ページ https://seikatsushoin.com/books/kowareta/

本問題に関心を持ち、こころよく翻訳作業を引き受けて下さった共訳者の方々に、この場を借りて深くお礼申し上げます。

 

追記

アマゾンウエブサイトには、コレクター商品として定価より高価な品が掲載されておりますが、現時点で本書に何らかのプレミアの付いた版は存在しておりません。

「卵子の老化」関連

フィンレージの会の、鈴木さんより下記の文章を頂きました。


「卵子の老化」について思うこと

鈴木りょうこ
フィンレージの会ニューズレター 第117号(2012年10月13日発行)掲載

 

過日、フィンレージの会事務所にNHKの記者さんが来ました。今年2月に放映された『クローズアップ現代』と6月の『NHKスペシャル:産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜』の取材・制作に携わった女性です。このテーマへの感想や意見、今後の支援や啓発のあり方などについて話を、ということでした。

実は私自身は番組を観ていません(その後のレビューは読んでいますが)。もともとTVはほとんど観ないのと、このテーマだと観れば気持ちが乱れるだろうな、と思っていたからです。

しかし、番組を契機として「卵子の老化」という言葉はあたかも流行語(?)になったような気配もあり、記者の方にお話したことも含め、この件について少し思っていることを書きたいと思います。

 前述のように、「卵子老化」はなんだか社会事象、不妊の問題を表現するひとつのキーワードにもなった感があります。

9月13日付毎日新聞も、連載『こうのとり追って:第5部・考えよう妊娠、出産』で〈2 卵子の老化「知らなかった」〉という見出しの記事を掲載しています。本文には【もし、若いうちに卵子が老化すると知っていたら】【だが年齢が上がると、卵子が老化して、妊娠しにくくなる。そのことを斉藤医師(筆者注:国立生育医療センター不妊診療科医長)が患者に説明すると、ほとんどの患者が「知らなかった」と答えるという。】とあります。

加齢により妊孕力が低下するのは私にとっては常識でした。一般に35歳以上の妊娠は「高齢妊娠」と呼ばれ、受精卵の染色体異常が増加すること、また妊娠高血圧症候群(いわゆる妊娠中毒症)などの合併症のリスクや分娩時のリスクも高くなることなども、知識としてはありました。私の年代(1960年代生まれ)だと、多くの方がなんとなくではあってもこうした知識を持っていたのではと思います。実際、フィンレージの会でも、発足のころ(私が30代だったころ)は治療の区切りを「40歳(あるいは42歳)」にしていた方が多かったと記憶しています。「卵がとれない」「体外受精を繰り返しているが妊娠しない」と嘆く方も、多くは30代半ばでした。不妊専門医が「33歳とか35歳を過ぎると卵がガタッととれなくなるんだよね。だから治療を始めるならできるだけ早く来てほしい」と話していることも、よく話題になっていました。

しかしここ10年、特に最近は30代後半で結婚、40代で治療という方がとても多くなり、この嘆きもその世代の方から聴かれることが多くなりました(会員さんの平均年齢が現在はたぶん40代になっているであろうことも影響していますが)。

正直、42歳、43歳、あるいは45歳などの年齢の方のこうした嘆きを耳にしても、私はもう言うべき言葉がみつかりません。年齢から考えて、妊娠はかなり難しい。確率的に低い。体外受精を受けるにしても、それはダメモトくらいに考えないとできないかもしれない。またそれは子どもを得るためではなく、自身が納得するためかもしれない。そうやって少しずつ、自分の状況を呑みこんでいくしかないかもしれない……。

嘆かれている方には、たいていそんな話をしています。

 それはさておき、私は最近「卵子の老化」という言葉、表現に違和感を持つようになりました。

加齢による妊孕力の低下は、身体の摂理です。

日本人女性の閉経は平均で50〜51歳。前後10年は更年期ですから、一般には45歳からは更年期。ちなみに〈更年期〉をキーワードにネット検索をすると、「女性の卵巣の働きは30歳ぐらいをピークにゆるやかに低下し始める」「卵巣機能がストップするとやがて閉経」などの記述が多数出てきます。そう、正確には「卵子」だけが“老化”するのではなく、加齢で卵巣機能が低下するのですね。

 NHK記者さんに対し、同席したスタッフのNさんは「卵子老化という言葉には“人”が見えない」というニュアンスのことを伝えていました。私も同感です。卵子がただの細胞のように聞こえる。「卵子老化」という言葉、イメージが先行し、「なら卵子の若返りを」「若い女性の卵子をもらう」という感じに話が流れていきそうな危惧を抱きます。

また、NHK記者さんは「加齢による卵子の老化に苦しむ女性に、どのような支援を訴えればよいか」と問いかけられたのですが、この問いも何か変というか、ねじれがあるように感じます。

少なくとも私自身は「加齢による卵子の老化」に苦しんだのではない。「子どもができないこと」に苦しんだのです。課題は「子どもができないこと」であり、「卵子の老化」ではなかった。繰り返しますが、課題を「卵子の老化」としてしまうと、結局は前述のような「若返り」など、「vs加齢」「vs老化」といった科学的解決/技術的解決に陥ってしまうのでは、と。(ついでに言えば『加齢による不妊』もおかしな言葉だと思っています)

 体外受精や顕微授精が“あたりまえ”の不妊治療ワールド(?)に入り込むと、卵子や精子があたかも“ワタシ”から独立した—切り離された—“モノ”“細胞”のように思えてしまう/思わされてしまう、扱われてしまう/扱ってしまう……ことがあるように思います。

しかし、卵子や精子はまぎれもない“わたし”の一部。その“わたし”が愛しいと思う別の“人”と出逢い、そうして新しいいのち/人格が誕生する。うまく言えませんが、そうした大切な、いのちの“かけら”。

 不妊の悩み・苦しみは、とても人間的な悩みだと考えています。たくさんの感情を持ち、迷いながら生を営む人間=“わたし”丸ごとの悩み。体外受精や顕微授精は「科学」「技術」に過ぎず、この悩みを助ける「方法」を提供することはあっても、本質的な意味での「解決」「解消」を導いてくれるわけではありません。あたかも修理・交換ができるような感覚で卵子・精子を見つめること、あるいは「卵子老化」をキーワードに不妊を語ること―いってみれば科学的解決をめざすこと―は非常に危うい。それは、ともすれば“わたし”の人間性を損ね、また不妊の人間的な解決——それぞれが不妊を自分の人生の中でどう位置づけていくか——を見失うことになりはしないかと思うのです。

 今号のニューズレターではこの夏開催された「iCSi会議」「日本生殖看護学会」という2つの大きな会議の報告も掲載していますが、この会議でも「提供精子・卵子による妊娠」は大きなテーマでした。どちらの会議もそれ(提供精子・卵子)が自明の選択肢のように語られている印象があり、いまこの項を書いている私は、まずその大前提に疑問を投げかける作業も大切なのではと思い始めています。

不妊の「解決」を、「科学」から「人」の手―人間的な営みの中での取り組み―に取り戻すために。(すずき)

2018年3月2日共催シンポジウム報告

「Fear, Wonder, and Science:リプロダクティブ・バイオテクノロジー新時代における科学と社会」報告

2018年3月2日(金)17:30~20:30  於:東京ウィメンズプラザ・ホール

概要

本シンポジウムは2017年8月に出版された共著による『Fear, Wonder, and Science in the New Age of Reproductive Biotechnology』(生殖テクノロジー新時代の不安、驚異、科学)。の著者、スコット・ギルバート氏、クララ・ピントーコレイア両氏を招いて開催された。

本書は発生生物学、そして科学史についての膨大な知識と情報、そして類いまれな洞察を持つ両氏による一般向け(特に学生等)に向けた書籍であり、両氏の補完的・応答的な記述は、現代生殖技術をどう考えていけばよいのか、重要な視点を提供してくれている。ちなみに序文はダナ・ハラウェイ。邦訳の待たれる一冊。

Scott Gilbert, and Clara Pinto-Correia, Fear, Wonder, and Science: in the New Age of Reproductive Biotechnolog, Columbia Univ Pr, 2017/8/8

登壇者

◎スコット・ギルバート Scott F. Gilbert

米国の進化生物学者、歴史学者。その名を冠した『ギルバート発生生物学Developmental Biology』(メディカルサイエンスインターナショナル)は発生生物学の〝バイブル〟とさえ言われ、2019年現在、第10版を重ねる。他に『生態進化発生学―エコ‐エボ‐デボの夜明け Ecological Developmental Biology: Integrating Epigenetics, Medicine, and Evolution』(共著,東海大学出版会)も有名。

◎クララ・ピント-コレイア Clara Pinto-Correia

ポルトガル在住。発生生物学者、自然史家、科学史家、作家、ジャーナリストとしてポルトガル国内では有名である。邦訳は下記の『イブの卵』しかないが、『イブの卵』は17-18世紀に栄えた前成説の歴史を膨大な資料をもってたどった書として評価も高い。

Clara Pinto-Correia, 1997 The Ovary of Eve: Egg and Sperm and Preformation , University of Chicago Press. U.S.A=佐藤恵子訳『イブの卵—卵子と精子の前成説』白揚社,2003

◎鈴木良子(フィンレージの会)

「日本の生殖医療の歴史と現状報告」報告内容

コメンテーター

柘植あづみ(明治学院大学)

Chia-Ling Wu(台湾大学)

シンポジウム内容

ギルバート氏の講演タイトルは「精子伝説 LEGENDS of the SPERM」。受精という現象は、従来「億単位の精子が卵子に向かって競争(闘争)し、勝ち残った〝ヒーロー精子〟が卵子を手に入れる/卵子はヒーローのクエストの報酬、すなわち救いを待つ乙女/精子はドリルのように卵子に穴を開けて侵入する」というイメージで語られてきたが、これらは間違いであるとする。近年の発生生物学の知見により、受精—発生は、精子と卵子の段階的な相互作用で進むことが明らかになっている。たとえば、卵子およびその周辺細胞は精子を活性化させ、卵子へ誘導する。到達した精子は卵子に穴を空けて入り込むのではなく、卵子に寄り添い(このとき卵子もまた活性化する)、やがて卵子と融合していく。前述のような精子・卵子に対する間違ったメタファー(ヒーロー精子と乙女卵子)は文化的に作られたものである。さらに、着床も、胚と子宮、相互の協力によって進む。

ピント–コレイア氏の講演タイトルは「生殖技術と現実—奇跡はない!ART & Reality-There are no miracles!」。現状のART(体外受精・顕微授精)について、このままでいいのか、と投げかける。患者は「子が欲しい」「信じたい」と思うからこそクリニックに行く。しかしARTの妊娠率、出産率は特に大きく上がっておらず、データが虚偽の場合もある。リスクもある。不妊クリニックは巨大なビジネスとなっている。また〝優れた遺伝子〟という幻想を追うカップル(ノーベル賞男性の精子、ブロンド女性の卵子等)、代理出産の問題なども。特に代理出産は生物学的には自分の子と言えないのでは? 養子とどこが違うのだろうか?

コメンテーター・柘植氏の「不妊治療を受けても妊娠しないとき、患者は医師の想定通りに反応しない自分の身体が悪いかのような気持ちになる」「成功率が低いことや危険を知った上でなお不妊の人が生殖補助医療を受け入れるのはなぜだろう」という投げかけに対しては、ピント–コレイア氏は「自分を責めるのは世界共通。世俗的な言い方だが、いつでも『女のせい』。不妊も女のせい。エデンの園を追われたのもイブのせい。不妊の人は自分を〝異常〟と捉えてしまい、治療から降りられない。そうした負のスパイラル、そして技術の見直しの時期に来ている」とした。自身も数回の体外受精を経験、その後養子を迎えたピント–コレイア氏の話は、日本社会が不妊—生殖技術の「何を」を問題と捉えていけばよいのか、あらためて示唆したように思う。

Chia-Ling Wu呉嘉苓氏(台湾大学)は、スライドを用い、台湾における生殖技術の話題として「多胎妊娠 Multiplets’ Troble」「素晴らしき新家族 Brave New Family」を挙げた。日本では1996年に日本産科婦人科学会が、体外受精・顕微授精において移植する胚の数を原則3個以内とする会告を出した。台湾では2005年に台湾生殖医学会(Taiwan Society for Reproductive Medicine:TSRM)のガイドライン、また2007年(人工生殖法が成立した年)に国レベルのガイドラインが出されたが、その胚移植数は「4個以下」のため、双胎またはそれ以上の多胎妊娠が防げていない。女性と産まれる子の健康を脅かしている。もう一つの「素晴らしき新家族」はLGBTの家族形成である。台湾ではレズビアンカップルがドナー精子による人工授精によって、ゲイカップルが代理出産によって児を得るケースが出てきている。いずれも渡航生殖による。さらにシングル女性が生殖技術を利用する権利なども考えていかなければならない事柄だとした。

 


台湾に関する追加情報

*2019年5月24日TAIWAN TODAY 「台湾、アジアで初めて同性婚合法化へ」(2019年6月11日アクセス)

*2019年5月8日 毎日新聞「麗しの島から/台湾で急増する子育て中の同性カップル」(2019年6月11日アクセス)

なお、同シンポジウムは「ふぇみん」3186号(2018/05/05)5面「東京で生殖技術に関する講演会・シンポジウム 無批判に巨大化する不妊治療/科学も文化に影響される」で紹介されている。同3185号(2018/4/25)でクララ・ピント‐コレイア氏のインタビュー『「不妊は自然なこと」と性教育で』も掲載。インタビューの一部はこちらでも読める。

(文責:鈴木R)

日本の生殖技術の歴史と現状(シンポジウム報告内容)

2018年3月2日に開催された、本会共催シンポジウム「Fear, Wonder, and Science:リプロダクティブ・バイオテクノロジー新時代における科学と社会」に登壇なさった、フィンレージの会の鈴木良子さんによるパワーポイントの報告内容(PDF)を掲載します。

不妊治療を受けた立場から論じる、日本の不妊治療の現状への問題提起です。

資料へのリンクはこちら

 

『代理出産ーー繁殖階級の女?』上映会配布資料

映画『代理出産ーー繁殖階級の女?』上映会では、観客の皆様が、内容を理解する上での参考になるよう、代理出産に関する現状と問題点をまとめた資料を配布しております。

どなたでもご利用いただけますが、利用目的は研究・教育に限ります。ご利用の際は、必ず本会の資料であることを明記してください。

ここからダウンロードできます。

ロシアの現状

2017年12月現在

法律

ロシアでは、1995年に採択された家族法51条と53条で代理出産に関する言及がなされ、代理母の同意によって、「みなし親」(intended parents)は、出生証明書に記載されることが定められた。また最新の法では、新健康管理法の55条(new health care bill, article 55)で代理出産を含めた生殖補助技術(ART)と代理出産の利用について定めている。この新健康管理法を含め、ロシアのこれまでの法律は、有償・無償の別なく代理出産の実施は合法である。

近況

ロシアはかねてからヨーロッパ在住者の生殖アウトソーシング先として有名であった。近年になり、インドやタイ、ネパールなど、アメリカ人の主なアウトソーシング先であったアジア各国が代理出産を禁止したことに伴い、ロシアやウクライナ、ジョージアなど東欧の国々が、アメリカ人も対象とした、世界的な生殖アウトソーシングの場として知られるようになっている。

ロシアの代理母が受け取る報酬は、ロシアの平均的な教員の1年半分に相当し、金銭面で動機づけられたロシアの貧困女性が大挙して志願している。それは表面上は「同意」でありながらも、女性たちが「喜んで他人に身体を貸す」ことの「経済的な強制」だと問題視している。2

この現状に対し、かねてからロシアのキリスト教信者の殆どが属するロシア正教会は、2013年には代理出産を「神への反抗」、「幸せファシズム」などと強く批判しており、同年に議会でも禁止法案が検討されてきた。3 とりわけ商業的代理出産は厳しく批判されている。2014年にロシア連邦議会下院「家族・女性・子供委員会」委員長は、部分的に代理出産を容認するものの、商業的代理出産は禁止すべきとの見解を示している。

代理出産の禁止を求める議論は2017年3月に再燃し、禁止法が再検討され、4 2017年11月には、代理出産をロシア国内で禁止されている売春に例えた上で、Anton Belyakov上院議員が禁止法案を提出した。5、6

*付記

2018年1月23日に放送されたTV番組『ミヤネ屋』や、雑誌『婦人公論』2018年2月13日号では、丸岡氏は代理母がクリスチャンである事に言及し、宗教観ゆえに代理母になったことを暗示しているが、ロシア人代理母がクリスチャンであることは、彼女が宗教的理由から代理母を引き受けることを説明する根拠とはならない。

ロシアのクリスチャンの96%以上を占めるロシア正教会は、代理出産そのものを強く批判しており、政府に禁止を求めている。またロシアのクリスチャンには1.6%のカトリックも含まれるが、周知の様にカトリックは、人工授精はもちろんあらゆる生殖技術を、長らく批判し続けている。近年では、体外受精を発明したエドワーズ博士へのノーベル賞授与に対し、ローマ教皇が不快感を示したことが記憶に新しい。

 

1 https://www.huffingtonpost.com/entry/surrogacy-ukraine-russia-georgia-czech-republic_us_595fa776e4b02e9bdb0c2b47 (2018年2月24日訪問)

2 ‘Mutiny against God’: Surrogacy in Russia thrives thanks to lack of regulation, published on Nov 28, 2017, https://www.lifesitenews.com/news/mutiny-against-god-surrogacy-in-russia-thrives-thanks-to-lack-of-regulation (2018年1月31日訪問)

3 Russian Lawmaker Proposes Ban on Commercial Surrogate Motherhood ”The Moscow times”, issued on April 24 2014. https://themoscowtimes.com/news/russian-lawmaker-proposes-ban-on-commercial-surrogate-motherhood-34637 (2018年1月31日訪問)

4 Bill banning surrogacy reaches Russian lower house of parliament published on March 27, 2017. http://www.rapsinews.com/legislation_news/20170327/278106535.html

(2018年1月31日訪問)

5  Russia Considers Ban on ‘Immoral’ Commercial Surrogacy Industry, published on Nov. 23, 2017

https://www.newsdeeply.com/womenandgirls/articles/2017/11/23/russia-considers-ban-on-immoral-commercial-surrogacy-industry (2018年1月31日訪問)

6 Russian surrogacy, controversial and unregulated, published on 24 Nov 2017

https://www.bioedge.org/bioethics/russian-surrogacy-controversial-and-unregulated/12528 (2018年2月10日訪問)

【参考文献】

  •  E. Scott Sills (ed), 2016, Handbook of Gestational Surrogacy: International Clinical Practice and Policy Issues, Cambridge University Press.