ロシアの現状

2017年12月現在

法律

ロシアでは、1995年に採択された家族法51条と53条で代理出産に関する言及がなされ、代理母の同意によって、「みなし親」(intended parents)は、出生証明書に記載されることが定められた。また最新の法では、新健康管理法の55条(new health care bill, article 55)で代理出産を含めた生殖補助技術(ART)と代理出産の利用について定めている。この新健康管理法を含め、ロシアのこれまでの法律は、有償・無償の別なく代理出産の実施は合法である。

近況

ロシアはかねてからヨーロッパ在住者の生殖アウトソーシング先として有名であった。近年になり、インドやタイ、ネパールなど、アメリカ人の主なアウトソーシング先であったアジア各国が代理出産を禁止したことに伴い、ロシアやウクライナ、ジョージアなど東欧の国々が、アメリカ人も対象とした、世界的な生殖アウトソーシングの場として知られるようになっている。

ロシアの代理母が受け取る報酬は、ロシアの平均的な教員の1年半分に相当し、金銭面で動機づけられたロシアの貧困女性が大挙して志願している。それは表面上は「同意」でありながらも、女性たちが「喜んで他人に身体を貸す」ことの「経済的な強制」だと問題視している。2

この現状に対し、かねてからロシアのキリスト教信者の殆どが属するロシア正教会は、2013年には代理出産を「神への反抗」、「幸せファシズム」などと強く批判しており、同年に議会でも禁止法案が検討されてきた。3 とりわけ商業的代理出産は厳しく批判されている。2014年にロシア連邦議会下院「家族・女性・子供委員会」委員長は、部分的に代理出産を容認するものの、商業的代理出産は禁止すべきとの見解を示している。

代理出産の禁止を求める議論は2017年3月に再燃し、禁止法が再検討され、4 2017年11月には、代理出産をロシア国内で禁止されている売春に例えた上で、Anton Belyakov上院議員が禁止法案を提出した。5、6

*付記

2018年1月23日に放送されたTV番組『ミヤネ屋』や、雑誌『婦人公論』2018年2月13日号では、丸岡氏は代理母がクリスチャンである事に言及し、宗教観ゆえに代理母になったことを暗示しているが、ロシア人代理母がクリスチャンであることは、彼女が宗教的理由から代理母を引き受けることを説明する根拠とはならない。

ロシアのクリスチャンの96%以上を占めるロシア正教会は、代理出産そのものを強く批判しており、政府に禁止を求めている。またロシアのクリスチャンには1.6%のカトリックも含まれるが、周知の様にカトリックは、人工授精はもちろんあらゆる生殖技術を、長らく批判し続けている。近年では、体外受精を発明したエドワーズ博士へのノーベル賞授与に対し、ローマ教皇が不快感を示したことが記憶に新しい。

 

1 https://www.huffingtonpost.com/entry/surrogacy-ukraine-russia-georgia-czech-republic_us_595fa776e4b02e9bdb0c2b47 (2018年2月24日訪問)

2 ‘Mutiny against God’: Surrogacy in Russia thrives thanks to lack of regulation, published on Nov 28, 2017, https://www.lifesitenews.com/news/mutiny-against-god-surrogacy-in-russia-thrives-thanks-to-lack-of-regulation (2018年1月31日訪問)

3 Russian Lawmaker Proposes Ban on Commercial Surrogate Motherhood ”The Moscow times”, issued on April 24 2014. https://themoscowtimes.com/news/russian-lawmaker-proposes-ban-on-commercial-surrogate-motherhood-34637 (2018年1月31日訪問)

4 Bill banning surrogacy reaches Russian lower house of parliament published on March 27, 2017. http://www.rapsinews.com/legislation_news/20170327/278106535.html

(2018年1月31日訪問)

5  Russia Considers Ban on ‘Immoral’ Commercial Surrogacy Industry, published on Nov. 23, 2017

https://www.newsdeeply.com/womenandgirls/articles/2017/11/23/russia-considers-ban-on-immoral-commercial-surrogacy-industry (2018年1月31日訪問)

6 Russian surrogacy, controversial and unregulated, published on 24 Nov 2017

https://www.bioedge.org/bioethics/russian-surrogacy-controversial-and-unregulated/12528 (2018年2月10日訪問)

【参考文献】

  •  E. Scott Sills (ed), 2016, Handbook of Gestational Surrogacy: International Clinical Practice and Policy Issues, Cambridge University Press.

各種機関の声明文、判決文、その他関連団体

日本学術会議報告書 (2008年4月8日)

「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて―」リンク
代理出産は原則禁止。例外的な試行のみ認める。

日本産婦人科学会

生殖技術に関する会告一覧 リンク
代理出産関連は、2003年4月「代理懐胎に関する見解」会告にて禁止 リンク

日本弁護士連合会

生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言 2000年3月 リンク
胚の提供・代理母・借り腹(ホストマザー)を禁止。商業主義を禁止し、違反に対しては刑罰を科すことを提言する

品川事件(TVタレント夫妻による米国への渡航生殖の事例)

最高裁判所第二小法廷平成19年3月23日判決  全文へのリンク
1 民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものとして,我が国において効力を有しない。
2 女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産した場合においても,出生した子の母は,その子を懐胎し出産した女性であり,出生した子とその子を懐胎,出産していない女性との間には,その女性が卵子を提供していたとしても,母子関係の成立は認められない。

SOSHIREN 女(わたし)のからだから

刑法・堕胎罪の撤廃を求めるフェミニストらによるグループ。
生殖技術に関する意見書・声明も出している。声明一覧へのリンク

第三者の関わる生殖技術について考える会

代理出産、卵子提供、非配偶者間人工授精(AID)について扱っている。AIDで生まれた人も参加し、それらの技術に批判的な意見を述べている。リンク

非配偶者間人工授精(AID)で生まれた人の自助グループ(DOG)

実際に生まれた人々によるグループ。慶応大学におけるAIDを含め、様々な形式のAIDで生まれた人が参加している。 リンク
*このグループに連絡を取りたい方は、本会代表の柳原にメールを出して頂ければ、先方におつなぎします。代表の連絡先はこちら

比較ジェンダー史研究会

ジェンダー法学のサイトに生殖補助医療・代理母に関する説明がある。法整備に関する流れが分かりやすくまとめられている。リンク

 

代理母出産・借り腹、代理出産、代理懐胎の表記について

2018年初頭の丸岡いずみ氏に関する報道、また本人の手記では、他者の卵子を用いた受精卵で女性を着床・妊娠させ、生まれた子を得る《契約妊娠》を「代理母出産」と表記しています。現時点(2018年1月28日)でのマス・メディアの表記には、丸岡いずみ氏の表現にならい「代理母出産」とするメディアもあれば、「代理出産」とするメディアもあるなど、表記にブレがあります。

「代理出産」とは

日本では、アメリカで1976年に発明された、生まれた子を引き渡すことを前提に妊娠・出産を行う《契約妊娠》を「代理出産」と表記しています。これは英語”surrogacy”の日本語訳であり、学術専門家により、長らく用いられている表現です。この表記は日本で初めて開設された代理出産斡旋業「代理出産情報センター」(鷲見ゆき代表)や、1 自ら経営するクリニックで姉妹、母娘間で代理出産を実施した根津八紘医師による表記、衆議院議員野田聖子氏など、このような《契約妊娠》に対する立場の別を問わず、広く共通して用いられているものです。2

「代理出産」という表記の混乱

一方、大衆向けの雑誌記事では、人工授精を用い、遺伝的にも代理母の子である新生児を引き渡す代理出産を「代理出産」と呼ぶ一方、代理母以外の卵子(依頼者の卵や第三者からの提供卵)を体外受精させた受精卵の移植による代理出産を「代理母出産」と表記する例が見られます。しかし、この表現に対応する英語表記は存在していません。おそらく「代理母」(surrogate motherの訳)と、体外受精を用いる「ホスト型代理出産」(host surrogacyの訳)とを混在させた用語と考えられます。

「代理母出産」の大衆向けのマス・メディアにおける初出は、上述の斡旋業者、鷲見ゆき氏が自らの斡旋業の名称を「代理母出産情報センター」に変え、体外受精を伴う「代理母出産」と人工授精を用いる「代理出産」を区別して論じた事に端を発しています。3 この時期から、大衆向けのマス・メディアを中心に、「代理母出産」と「代理出産」を区別する表記が現れますが、その区別は必ずしも厳格ではなく、ときには反対の意味で(すなわち人工授精による代理出産を「代理母出産」、体外受精による代理出産を「代理出産」として)用いられることもありました。4 

このように「代理母出産」は、日本国内で曖昧な理解のまま流通する表記でありることから、現在ではこの問題に詳しい専門家の間では、用いられることはありません。一方、近年では娯楽向けのコンテンツの中で、国際的な用語はもちろん日本国内の専門用語も無視した形で「代理母出産」の表記が用いられています。しかし上述したように、この表記は正確性に欠けると共に、主に商業的代理出産の斡旋業者が利用する言葉であることから、客観的な議論を困難にする危険もはらんでいます。それゆえ本会では、この問題を公に論じる文脈では、「代理母出産」の表記を採用すべきではないと考えています。

「借り腹」という表現

また、体外受精を用いた契約妊娠(上記の区別に従えば『代理母出産』)に対しては、長らく「借り腹」という表記が用いられてきました。これは体外受精を用いた代理出産が、学術的には「宿主」を意味する”host”の用語を用いた「ホスト型代理出産」「ホストマザー型」と表記されていたことに由来する表記と考えられます。この表記は、大衆向けのメディアや専門家、行政の別を問わず、広く使用されていました。たとえば日本弁護士連合会は2000年の提言 で、また2003年の厚生労働省生殖補助医療部会の報告書でも、「借り腹」という表記が用いられています。6

「人工授精型代理出産」と「体外受精型代理出産」

研究者や専門家を中心に、米国で流通する用語の直訳として「伝統的代理出産」「従来型代理出産」や「ホスト型代理出産」「IVFサロガシー」など様々な表記が用いられる中、2009年に国際ジャーナリストの大野和基氏が「人工授精型代理出産」「体外受精型代理出産」の表記を産み出しました。7 この表記は「伝統的」「ホスト型」といった従来の表現がもたらす語弊を含まない、明確な表現であることから、それ以降、とりわけ人文系の学術的議論では、この用語が利用されるようになっています。

本会および本サイトでは、この方法がこれまで、さまざまな医療者や研究者はもとより、依頼者や代理母本人により「代理出産」の言葉で表記されてきた事実と、大野氏の発案を受けて代理出産の形態を明確に区別する用語が表れ、表記上の誤用の生じる懸念が消えたことを考慮し、用いられる技術の別を問わず、「生まれた子を引き渡す目的で行われる契約妊娠」を、従来通り「代理出産」と呼んでいます。

「代理懐胎」について

なお2000年代になると米国では、代理母と子が遺伝的に繋がっている人工授精型代理出産(”traditional surrogacy”)と、代理母が子と遺伝的に繋がらない体外授精型代理出産を区別するため、”gestational surrogacy”の用語が用いられるようになりました。8 それに伴い日本国内では、本用語の日本語訳として、しばしば「代理懐胎」の表記があてられ、これが現在まで、医療者を始め自然科学の領域を中心に、日本の学術的な議論でしばしば用いられています。

しかし一方で、2003年の厚労省部会報告の36頁「「代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する」の項 に見られるように日本の専門家団体や行政の間では「代理懐胎」を「人工授精型代理出産」(代理母)と「体外授精型代理出産」(借り腹)の両方を含めた”surrogacy”の訳として用いています。そのため日本国内では「代理懐胎」が、その英語訳である”gestational surrogacy”なのか、または英語の”surrogacy”にあたる意味なのかは、各自が文脈により判断しているのが現状です。このような状況も考慮し、本会および本サイトでは、語弊の生じる可能性の高い「代理懐胎」の表記もまた、その使用を控えております。

 


1.この日本初の代理出産斡旋業は、アメリカ人弁護士ノエル・キーンによる代理出産斡旋会社ICNY の東京事務所として開設されたものです。ノエル・キーンによる代理出産の発明についてはこのページを参照。
2.代理出産(surrogacy)に対する上記の定義(生まれた子を~契約妊娠)は、本会が定めたものではなく、これまで代理出産を論じる際に、英語圏の議論で長らく用いられてきた概念です。
3.初出は、雑誌『女性自身』1995年9月12日発行号の226-229頁。
4.たとえば『女性自身』、2002年3月12日発行、30頁。
5.日本弁護士連合会 生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言(2000年)リンク
6.厚生科学審議会生殖補助医療部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」(2003年)リンク
7.大野和基、2009、『代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳』、集英社新書。
8.Charles P., Kindregan, Jr. and Maureen McBrien. (2006) Assisted Reproductive Technology: A Lawyer’s Guide to Emerging Law and Science. Chicago: American Bar Association.
9.テキストはこちら

ニュース

【本ページで記載される日本語訳は全て粗訳ですので、正確な内容はご自身でお確かめ下さい】

日本

  • チャイナセンセーション第2部 変わる家族の形/2(その1) 代理出産、闇ビジネス:毎日新聞 
  • チャイナセンセーション第3部 国境を越える民/1(その2止) 代理出産「一族の決断」:毎日新聞 2016年6月18日 法のない日本で中国人富裕層が代理出産を実施、日本国籍を持つ子を得る。
  • 元日テレキャスター 丸岡いずみさん、代理母で長男誕生:産経ニュース 2018年1月23日 ロシアにおける商業的代理出産により男児をもうける。★注:「代理母出産」「代理出産」「代理懐胎」の表記について

ロシア

  • ロシア「非道徳的」として商業的代理出産の禁止を検討。2017年11月23日

  • 神への反抗:法整備の不在でロシアの代理出産は盛況。2017年11月28日
    生殖技術に関する法律不在の状態でロシアは「一種の生殖技術天国」、貧乏な女性たちが動員されている。代理母の報酬は14000ドル(約150万円)で、それは教員の平均年収の1年半分に相当。代理母たちの結婚生活はしばしば破綻し、夫のいない状態で子を養うために金が必要。
    ロシア正教会は激しく非難。代理出産を禁止する法律を繰り返し要求してきた。代理出産は「不自然で不道徳」「神への反抗」「契約と金、子供の押収を伴う”ハッピーファシズム”である」
    ロシア国内ではポップスター(タレント)の代理出産事例が明らかになったことを受けて議論が高まり、代理出産を完全に禁止する法案が提出されようとしている。その議員によれば、商業的代理出産は売春のようなものだ、と。
    ロシア正教会は、ポップスターの例を受け、このような例が国中に蔓延することがないように、私なら代理出産を禁止する。「悪例は伝染性がある」から。

    欧州

  • 左派フェミニストと保守的なカソリックが代理出産反対のため統合(2017年3月28日)リンク

中国

  • 第2子解禁の中国で大繁盛!村の女性の99%が従事「代理出産村」とは?2015.01.16 日刊サイゾー 女児であれば中絶し男児が生まれるまで人工授精で代理出産。また期間を定めた性交による代理出産も。つまり韓国のシバジ型、中国の典妻型それぞれの復活。

カンボジア

シンガポール

  • より多くのシンガポール人が代理出産サービスを捜す DEC 31, 2017
     ゲイのシンガポール人医師が、アメリカの代理出産で得た子(4歳)の養子縁組を却下される。シンガポールは代理出産を容認しておらず、近年、多くのカップルが海外で代理出産を実施。この数年で倍増。昨年、シンガポール人による、ある業者への問い合わせは100件を超えた。その内訳はヘテロカップル50%、ゲイカップル30%、シングル男性20%。

概況

日本の現状と背景

2016年時点

普及と法整備

日本国内には1980年代から、諸外国で散発的に実施されている代理出産が報道されてきたが、マスメディアは当初それらを、単に欧米社会の特異な出来事として紹介するのみであった。 日本で本格的に代理出産が自らの問題として認識されたのは、1990年からのことである。この年、4組の日本人夫婦が米国の代理出産で子を得た事例が報道された。また翌1991年には米国での代理出産斡旋業者の事実上の支店「代理出産情報センター」(鷲見ゆき代表)が設立され、 日本人が外国で代理出産を依頼する形式がしだいに普及していく。そこでは代理母の必要性はもとより、女性達はそれを人助けとして実施しているのであり、人々はそれを科学の恩恵として享受すべきであるという、米国流の代理出産解釈が繰り返し主張された。

代理出産を含む第三者の関わる生殖技術は、日本産科婦人科学会の会告により自主規制されてきたが、会告に反する行為を行う医師も出てきたことなどから、厚生労働省は1998年から第三者の関わる生殖技術について検討を開始し、2003年に代理出産は禁止すべきという提言を含 む報告書を提出した。しかしこの提言は野田聖子衆議院議員が強く反対したこともあり、報告書に基づいた法制度はいまだ実現に至っていない。

一方、厚生労働省が検討を重ねていた2001年に、長野県の産婦人科医が国内初の代理出産を行ったことを公表する中、タレント夫妻が代理出産依頼のため渡米すると、代理出産をめぐる米国流の言説、つまり「女性同士の助け合い」「科学の恩恵」という概念がメディアを通じて頻繁に主張され、人々の代理出産に対する認識は、肯定的なものへと大きく変化していった。たとえば2006年には柳沢厚生労働相(当時)が、変化しつつある世論を背景に、厚生労働省の報告書にはこだわらず、代理出産を容認する法整備の可能性に言及している。また政府は日 本学術会議に対し代理出産についての審議を依頼し、2008年に日本学術会議対外報告が公表されるが、そこでは代理出産を「原則として禁止」するも、「試行として実施する」という結論を出し、厳密に禁止を求めるものとはならなかった。

近年では、2014年に自民党プロジェクト・チームが、代理出産と卵子提供を可能とする「生殖補助医療法案」を作成している。2015年6月には自民党の法務.厚生労働合同部会において法案骨子が了承、さらに2016年3月には法案骨子に基づいた民法の特例法案(卵子提供や代理出産では産んだ女性と母とする等の内容)も了承された。

拡大する市場

代理出産を制限する法律を持たない日本人にとって、それは資金さえあれば誰もが利用可能な便利なサービスとなっている。そこに年齢も性別も関係しない。2008年には、独身の日本人男性がネパール人女性からの提供卵子を用いてインド人女性に代理出産をさせて子をもうけたものの、子を日本に連れ帰ることができない問題が生じた(マンジ事件)。2014年にも、日本人男性がタイ人の代理母を用い、19人の子をもうけたことが報道された。(赤ちゃん工場事件)。また高齢の独身女性が外国で卵子と精子を購入のうえ、代理母に妊娠を依頼し、生まれた子どもを日本に持ち帰った事例もある。

さらに近年では、法律不在の日本が、代理母の供給地として注目されはじめている。2016年には日本国内で、日本人を含め経済的に困難を抱える女性たちが、中国人依頼者の代理母に従事している事実が判明した。これまで日本人は主に外国で代理出産を実施し、現地で国際的な問題を引き起こしてきたが、近年では日本が逆の立場に置かれつつある。

 

代理出産とは1:古典的方法

それは「新しい問題」ではない

代理出産(surrogacy)とは、他者に妊娠を依頼し、お互いの同意の上、医学的な介入、ときには性交による自然妊娠を経て、産まれた子を依頼者が引き取るという、契約妊娠を指す。これはしばしば「生殖技術の進展」により生じた「新しい問題」とされるが、歴史的に見れば、代理出産/契約妊娠は、科学技術の進歩の結果というより、古来よりさまざまな文化の中で用いられ続けてきた、いわば<おなじみの方法>である。

西洋の古典的代理出産

古来の代理出産(古典的代理出産)は性交により妊娠し、生まれた子を依頼者に渡すものである。西洋文化圏における有名な例として、聖書の記載が挙げられる。アブラハムの妻サラは不妊で自ら子を産めないため、自分のエジプト人女奴隷・ハガルにアブラハムの子を産ませている(創 世記、16章)し、ラケルはヤコブとの間に子を作るため、やはり自分の女奴隷に子を産ませている(創世記、30章)。これらの記載から、かつて奴隷を側女(代理母)として子を得る行為が一般的だ ったと推測される。

韓国・中国の古典的代理出産

東アジアでは、同様の慣習が比較的最近まで存在していた。 たとえば朝鮮時代の韓国には「シバジ」(直訳すると「種受け」)と呼ばれる代理母が存在してい た。渕上によると、シバジは子どもの産めない妻に代わり、夫と性交して男児を産むことを生業とし ていた。シバジは男児を産めば高い報酬を受け取ることができたが、女児を産んだら、ごく僅かな報酬をもらうのみで、その子を連れて村に帰るので、シバジの村は女ばかりとなり、シバジの娘もまたシバジとして生きていく。 中国では、元代以前から明清朝にかけて、租妻(妻の賃貸)や典妻(妻の質入れ)と呼ばれる行為により、他人の妻を借りて子を産ませることがあった。この制度を用いて他人の妻を借りる側の多くは、自らの妻が原因で子がいないとか、子が夭折し妻は老年で出産できない、あるいは貧困で妻が娶れないといった背景のもと、子を得るために実施していたという。そのため本制度は「租吐 子(腹を貸す)」とも呼ばれていた。

日本の古典的代理出産

子を産ませる目的で女性と契約する制度は日本にも見られる。江戸時代中期から明治初期までの妾は、性欲の対象としてだけではなく、子を得るための役割も果たしていた。江戸時代中期には、「妾奉公」の名で、一種の職業的立場として扱われる場合もあった。妾奉公に関する資料によると、奉公期間中に得た子は主人の子となるが、妾は年季が明ければ子を残したまま、何も求めず家を去らねばならなかったことが示されている。 生殖目的としての妾の位置づけは、明治政府が制定した「新律綱領」の中にも、明確に表れている。そこでは家が子を得る必要性から、妾が正式に法律上の家族制度の一員として位置づけられた。加藤秀一は、これら妾の役割を「上層武士階級にとっての妾とは「『家』を維持するためのい わば『生殖装置』」であり、明治初期の家族制度への導入も「生殖機械としての女性を効率よく利用することで『家』の継続を保障し、国家の基盤を強化」するためだったと論じている。

近代的代理出産の“発見”

西洋における古典的代理出産は、キリスト教の影響により、遅くとも 11 世紀ごろにはこの習慣が 実質的に禁止されるようになったと考えられる。同様に、韓国・中国・日本など東アジアにおける古典的代理出産制度・慣習も、それぞれの文化圏に西洋文化が流入すると共に、女性の権利を侵 害する非人道的なものとして、廃止に至っている。 他方、米国ではこうした古来の契約妊娠が、「代理出産(surrogacy)」という名で新たに“発明” され、売り出された(「代理出産とは2:米国の再発明」を参照)。聖書の記述や東アジアで実施されていた慣習を「古典的代理出産」と呼ぶなら、こちらは「近代的代理出産」と呼び得る。そして、この近代的代理出産を多くのメディア(あるいは代理出産の先導者)はしばしば「科学技術の恩恵」といった言葉で表現してきた。しかしながら、代理出産で用いられる技術は、人々がイメージするような最先端の科学技術ではないうえ、現在では、より安価な代理出産のため性交による代理出産も報じられている。すなわち代理出産の根底にあるのは、科学技術や性交の有無でさえなく、「子を妊娠し引き渡す契約」の有無である。 代理出産という問題を考えていく際には、近代社会がいったんは「非倫理的」「非人道的」とラベ ル付けした行為が、「科学技術の進展」「科学の恩恵」という新たな言説をまとい、あたかも別の行為として認識され、容認されているという点を十分踏まえておくべきであろう。

本質にある倫理的問いとは

代理出産は、しばしば「子宮の貸し借り」の言葉で表現される。しかし代理出産は、取り出し可能な臓器の贈与や交換ではなく、生きた人間の身体行為そのものを他者へ利用させる行為である。 近代社会では、人体工場や臓器の取引が禁止されているように、他者の生存そのものを取引の 対象とする奴隷制や、たとえ一部でしかなくとも、人体部品を譲り渡す行為は、禁忌とされている。 それにもかかわらず、こと代理出産に限れば、女性の身体そのもの――そこには当人の意志の関 与できない生理活動も含まれる――を貸し借りや取引の対象とする方法が、取り立てて大きな抵 抗もなく普及し、さらに拡大されようとしている。 性と生殖に関連する場面では、女性の身体は、ごく簡単に他者による介入や取引が可能な存在 として位置づけられる。この社会は、女性が一般的な臓器や組織工場になるのは許さない一方で、 こと生殖の文脈では、女性の体を守ろうとしないばかりか、むしろ積極的にそれを他者のために利 用させることが推奨される。 この行為の本質にある倫理的問いとは何か。それは、古来より続き、いまだ明確な回答のなされ ていない困難な問題、すなわち妾制度や奴隷制度、または現在の買売春議論まで続く、他者の身体を利用することは許されるのかという問い、その行為をめぐる議論の中に見いだされよう。

参考文献

  • 柳原良江、2011、「代理出産における倫理的問題のありかーその歴史と展開の分析からー」、『生命倫理』、第 22 号、日本生命倫理学会。
  • 柳原良江、2015、「人体収奪の新形態−米国における日本人向け卵子提供産業の現状から−」、『生命倫理』、25 号、4ー12頁、日本生命倫理学会。
  • 柳原良江、2017、「フェミニズムの権利論」、田上孝一(編)、『権利の哲学入門』、社会評論社。
  • 渕上恭子、2008、「「シバジ」考̶̶韓国朝鮮における代理母出産の民族学的研究̶̶」、『哲学:特集 文化人類学の現代 的課題Ⅱ』、119 号、三田哲学会。
  • 加藤秀一、2004、『〈恋愛結婚〉は何をもたらしたかー性道徳と優生思想の百年間』、筑摩書房。

イタリアの現状と背景

2016年時点

2004 年に成立したイタリアの生殖補助医療法は代理母を禁ずる。生まれてくる子どもの人格の 尊厳と基本的人権、特に身体的・精神的・実存的完全性への権利、そして家族への権利を侵害するからである。生命は伝えられ受け継がれる。有性種の生命の法則は雌雄の生物学的構造の 内に記されている。しかし身体(corpo)と精神(spirito)の合一(unitotalità)である人格においては、生物学的法則は本能的衝動を自由な選択と義務に高める知性と精神の統制下にある。選択と義 務は誠実な深い愛に根差した二人の心、知性、そして霊魂の精神的な諸力のすべてを巻き込み、その愛は生命の賜物である子どもに充満する。代理出産において、子どもは二人の人格から遺伝的遺産を受容する一方、他のもう一人の人格 である代理母から血液、栄養、そして子宮内部での活発なコミュニケーションを受容する。それは、自分の両親を知り、自分の両親によって自己を同定する子どもの権利を侵害する。また両親の一 致、両親と子どもの関係の緊密性を傷つけ、家族を構成する身体的・心理的・道徳的諸要素の間にも深刻な分裂をもたらす。

参考文献

  • 秋葉悦子、2005、『ヴァチカン・アカデミーの生命倫理』、知泉書館。
  • エリオ・スグレッチャ、秋葉悦子(訳)、2015、『人格主義生命倫理学総論』、知泉書館。

ドイツの現状と背景

2016年時点

ドイツでは 1989 年の「養子斡旋及び代理母斡旋禁止に関する法律」において、代理母を斡旋し たりその事業を宣伝したりすることが禁じられた。1990 年の「胚保護法」では、「出産後、その子を 第三者に譲渡する用意のある女性(代理母)に、人工授精を実施もしくはヒト胚を移植した者」は、「三年以下の自由刑〔禁固刑〕もしくは罰金刑に処する」と規定された。 禁止の根拠として、まず代理出産は「子の福祉」を害するということが挙げられる。妊娠中から母子の愛着形成が始まり、安定した関係の中で出産や育児が継続的になされることが、子どもの成 長にとって非常に重要であるとされる。「母性の分裂」は心理的にも法的にも不安定性をもたらしう る。そこに金銭や様々な大人の意図が介在すれば、子どもを育てるために望ましい環境は損なわ れてしまう。子どもが欲しいという大人の願望(「子ども願望」)よりも、「子の福祉」が優先されるとい うのがドイツの考え方である。 2010 年、ドイツ人夫婦の依頼によりインドで代理出産された子のドイツへの入国が拒否された。 日本と同様に「出産者=母」であり、その子はインド人だというのである。このケースではすでにドイ ツ人夫婦に2年間の養育実績があったので、その後の裁判によって辛うじて養子縁組が認められ たと推測されるが、その過程では「親としての資格」が厳しく吟味された。

参考文献:

  • 小椋宗一郎、2011、「代理出産をめぐるドイツの言説」、日比野由利/柳原良江(編)『テクノロジーとヘ ルスケア』、178-188頁、生活書院。
  • 小椋宗一郎、2011、「代理出産と不妊相談」、『死生学研究』15号、289-311頁、東京大学大学院 人社会系研究科。

代理出産とは2

米国における発明

現在、私たちが一般的に「代理出産」と呼ぶ方法は、1976 年に米国ミシガン州の弁護士ノエル・キーン(Noel Keane)により発明された。キーンは、カリフォルニアの独身男性が、人工授精を用いて自分の子を妊娠し、産まれたら引き渡してくれる女性を探す広告を新聞に掲載した出来事にヒントを得て、同様の方法を「代理出産」という名で売り出した。

当初は批判も多かったこの方法に、現在のように肯定的な認識を与える大きな契機をもたらしたのは、全米初の代理母として知られるエリザベス・ケインを中心としたキャンペーンである。ケインは妊娠中、彼女による代理出産を担当した産婦人科医らの手配により、米国内で数々の著名なメデ ィアに出演し、代理母の必要性と価値を謳った。実際のところ彼女は出産後にその経験を後悔し、自らベビーM事件(後述)に伴う代理出産反対運動に身を投じるが、米国では、彼女らの活 動を通じて、代理出産に対する肯定的な考え方が普及することになった。

ケインのキャンペーンを始め、80 年代前半の代理出産推進運動で盛んに論じられたのは、それをボランティアと位置づけ、女性同士の助けあいとみなす発想である。もともとこの解釈は、上述した代理出産の発明者、ノエル・キーンによって作り出されたものである。キーンは代理出産を人身売買として批判されない よう、無償のボランティア女性による「人助け」に位置づけた。そして無報酬ながら代理母となる女性を集めるための宣伝文句として「利他的(Altruistic)」の言葉を利用した。ただし本当の無報酬では女性たちが集まらず、のちに代理母への報酬が支払われる形へと変化することとなり、結果的 に代理母の報酬を不当に低額なものに抑える原因を作ることとなった。

エリザベス・ケインを斡旋した産婦人科医は、マス・メディアを通じて代理出産を「科学の恩恵」と位置づけた。初期の代理出産で使われた技術は、200 年以上前に実用化された「人工授精」という「手技」だったが、それがあたかも最先端の科学知により編み出された新技術であるかのように位置づけられた。特別な技術としての認識は、値段にも反映されている。1980年代、通常の不妊治療では325ドルしかかからなかった人工授精が、代理出産の契約のもとでは1500 ドルで実施されていた。

ブームの減退

このような代理出産は、米国初の代理出産による親権裁判となった「ベビーM 事件」により、広く非難されることとなった。ベビーM 事件とは、1986年にニュージャージー州の代理母が、自ら産んだ子の引き渡しを拒否し、依頼者によって訴えられた出来事である。

この裁判を通じ、代理出産契 約を問題視する研究者や女性団体はもちろん、過去に代理出産を実施した代理母当事者や宗教団体、さらに政治的保守派も巻き込み、代理出産の反対運動が高まることとなった。その結果、判決では代理出産契約じたいが無効とされ、代理母が実の母親として認められた。またこの当時盛んになった反対運動により、いくつかの州や地域で、代理出産が禁止または契約じたいが無効とされた。現在も米国では、反対運動の盛んであったミシガン州やワシントン D.C.など、代理出産が厳格に取り締まられている州や地域があり、それはこの当時の運動の成果によるものである。そしてこの時期から、米国内でも代理出産の流行はしだいに減退していく。

代理出産の復活とアウトソーシング化

しかし代理出産は、1990 年のジョンソン対カルヴァート事件(Johnson vs. Calvert)」判決の影響を経て、再び人気を回復する。この事件は、代理母のジョンソンが、依頼者であるカルヴァート夫妻の遺伝的な子を、体外受精を経て妊娠・出産し、生まれた子の引き渡しを拒んだものである。判決では代理母を実の母親とみなしたベビーM 事件と異なり、子の母親は妊娠・出産したジョンソンではなく、使われた卵子の持ち主であり、依頼者として子を持つ意思のあったカルヴァート夫人にあるとした。この判決をきっかけに、代理母による親権裁判を恐れて下火になっていた代理出産は、人工授精の代わりに体外受精を用いる形で、急速に普及することになる。その結果、現在まで にカリフォルニア州をはじめ、代理出産を合法的に実施できる州で、世界中の富裕層向けに大きな代理出産市場が作り出されている。

米国における代理出産産業の拡大は、非富裕層向けの市場として、アメリカ以外の発展途上国で「生殖アウトソーシング」と呼ばれる代理出産をも生みだすようになった。 アウトソーシング先として、かつてはインドやタイが有名であった。2016 年現在、両国とも外国人による代理出産を禁じているが、新たな委託先の開拓は常に行われており、ある国で有償の代理 出産が禁止されても、すぐに拠点を移し別の国で同じビジネスが繰り返される。隣接するメキシコ* や医療費の安いカナダはもちろん、近年では、カンボジアやジョージア共和国などが新たなアウトソーシング先として注目を浴びている。

*メキシコでは 2015 年に可決された法案により、2016 年 1 月 14 日より外国人による依頼が禁止された。

参考文献

  • 柳原良江,2017,「フェミニズムの権利論」,田上孝一(編),『権利の哲学入門』,社会評論社.(なお、本記事に載せられた個別の情報に関する出典も、この論考の中に参考文献として記載されています)。