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声明文(2020年12月20日)

「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」についての声明

去る2020年12月7日第203回臨時国会にて「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」が成立した。

当会は、法案の審議前から要望書(PDFのリンク)を作成、国会関係者に送付してきた。当会以外にも、当事者団体や女性団体、障害者団体など、諸団体が法案に対する懸念や法文上の問題点を示し、人の命に関わる本法案に関する、十分な議論とそれを反映させた法文改善を要求してきた。しかしながら、それら国民から寄せられた懸念は顧みられることなく、本法案は参議院法務委員会で2時間20分、衆議院法務委員会で2時間30分と、極めて短時間の審議を経たのちに成立した。

このように国民の声を無視して強行された、非民主的な立法過程に関して、国会関係者は猛省すべきである。そして本法律によって今後本邦にもたらされる社会問題に対し、当会は強い憂慮の念を抱いている。以下、本法律が持つ問題と、本法律による不備がもたらすであろう将来的な問題について説明する。

本法律が持つ問題

  • この法律により、一般社会では、卵子提供が本邦でも法的・社会的に容認されたものとみなされかねない。
  • 第三者の卵子を用いた生殖技術(卵子提供による妊娠および代理出産)における卵子提供者・懐胎者・生まれてくる児の被る医学的リスクは、本法律の提出、成立に至る中で、まったくといっていいほど検証・審議されていない。
  • 現状の生殖補助医療は、女性身体の商業的搾取という構造的問題点を孕んでいる。そのような中、なんら規制もないまま本法律により親子関係を先に保障すれば、卵子提供の商業化が進む。
  • 本法案は2年を目処に代理出産の合法化も視野に入れている。代理出産が合法化されれば、上記の問題は更に深刻化し、健康被害を含め、女性身体の搾取・収奪は深刻化する。
  • 当事者に関する心理的援助は現実性を欠き、誰が当事者なのかさえ明確ではない。

本法律の不備がもたらす問題

  1.  卵子提供と提供卵子による妊娠がもたらす健康被害について

    • 卵子提供者(卵子ドナー)の健康被害
      卵子提供では、一般的な不妊治療とは異なり、ドナーに対して大量のホルモン剤が投与される。商業的な卵子斡旋が盛んな米国では、卵子ドナーとなったことで、若い女性が後遺障害に苦しんだり、自身が不妊になったりしている。他国では死亡例も存在し、さらに長期的な副作用としての発がん性の疑いも指摘されている。
    • 母体の健康被害と生まれる児への影響
      提供された卵子(ドナー卵子)で妊娠出産する女性は、自己卵子で妊娠する場合と比較して、より重大な医学的リスクに晒されることが、医学論文により確認され、本邦でも報告されている。具体的には重い妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、分娩後の大量出血、それらに伴う子宮摘出などである。これらは母体だけでなく児にも大きなリスクがある。
    • 当事者が被る負担
      卵子ドナーや、提供卵子で妊娠する女性に、十分な説明と同意のもとで、慎重な医療的プロセスが取られるとしても、女性たちは事前の薬物投与を含めて長期の監視のもとに置かれることとなり、その心身への負担は極めて大きい。またいくら慎重な医学的管理を行っても、排卵誘発剤使用による血栓症や、分娩時の突発事象は完全には防ぎ得ず、これらの健康被害は取り返しがつかない。

2.生殖技術における女性の身体の商業化・女性の収奪について

    • 親子関係の保障による商業化の促進
      米国・カリフォルニア州では生殖技術に関する、種々の規制法の成立を待たず、判例により、子を持つ意思のある依頼者が親となることが保障された。その結果、依頼者は、安心して卵子提供や代理出産を実施できるようになり、米国は世界一の生殖ビジネス市場となった。日本も同様の事態が想定される。
    • 日本経済の低下に伴うグローバルな女性の収奪
      これまで国内で実質的に卵子提供が禁止されている状態であっても、日本の若い女性が、インターネット広告の募集に応じ、米国やタイに渡航して卵子を提供(売買)してきた。日本経済が低迷し、日本人の隠れた貧困が深刻化している状況において、今後、日本国内の女性が、グローバルな生殖技術市場で、卵子や代理母の供給源としてターゲットになることは明白である。本法律は、近い将来さらに増加するとみられる、経済力に乏しい女性たちを、これまで以上に卵子提供や代理出産の圧力に晒すことになる。
    • 無償の卵子提供による収奪の拡大
      日本は女性の社会的地位が低く(ジェンダー・ギャップ指数では世界121位)、いまだ家制度の発想が残る。本法律により、望まぬ卵子提供や代理出産など、若い女性が家族・親族から圧力を受け、身体を提供せざるを得なくなる事態が生じる危険がある。

3. 潜在的な依頼者による利用の増大

    • 独身男性・高齢独身女性による需要
      日本では、卵子を購入したり、代理母を利用するのは、ヘテロセクシュアルの男女の不妊カップルだけかのように議論されているが、現実には、極めて多様な人々がそれらを利用している。2008年に国際問題となり、インドの法律改正にも影響を与えた「マンジ事件」では、日本人の男性が、ネパール人女性の提供卵子を用いてインド人代理母に児を産ませている。2014年にインターポールの調査対象となったタイの「赤ちゃん工場事件」でも、日本人の独身男性が、提供卵子とタイ人代理母を利用して15人を超える児をもうけている。さらに日本人の独身高齢女性が、米国で卵子、精子を購入し、代理母によって児を得た事例も報告されている。
      これら無制限の商業的生殖ツーリズム、人体搾取は国際的にも批判され、2010年代にはアジア諸国が規制を進めることとなった。しかし我が国の政府は、上記のような実態を顧みない浅薄な認識のもと、何らの規制もない“容認法“を成立させた。国として無責任と言わざるを得ない。
    • 男性カップルによる需要
      同性婚の合法化された地域では、兄弟のため姉や妹が卵子提供者や代理母になる例が続出している。今後、日本でも同性婚が合法化されれば、卵子や代理母の需要は確実に増加する。すでに日本国内にも、姉妹から卵子を得て、パートナーとの間で子を得た男性カップルが存在する。歯止めとなる法律を欠いたまま、同性婚が合法化されれば、親族による卵子の需要は急激に高まり、女性たちが圧力に晒される。

4. 当事者に対する心理社会的援助の欠如

    • 相談を提供する必要性
      法案第3条2項には、「必要かつ適切な説明」と「各当事者の十分な理解」が求められている。しかしこれは、いわゆる「インフォームド・コンセント」のルールを確認するものであり、一般の医療行為の要件を超えるものではない。生殖補助医療を利用する際には、単なる「説明」では足りず、傾聴と対話を旨とした心理専門職の技能をもとに、必要な社会的援助へとつなげる「相談」を提供する義務を医療機関に課すべきである。
    • 相談体制の整備を「絵に描いた餅」にする法案
      第7条には国による「相談体制の整備」がうたわれている。しかし不妊の悩みは身体のみならず、心理的、社会的な側面が相互に関係しあう複合的なものである。このため、技術的解決を推進する〈医療〉とは別の立場に立ち、不妊に悩む人々の苦しみそのものを正面から受け止める援助者(公認心理士、社会福祉士等)が求められるべきである。〈医療〉〈治療〉に囚われない相談を提供し、公的資金によって運営すべきである。生殖補助医療という〈技術的解決〉を前面に押し出したこの法律は、結果的に、不妊治療クリニックの利権を拡大し、不妊治療で悩む人を増大させ、その悩みを深刻化させることが懸念される。

以上

「卵子の老化」関連

フィンレージの会の、鈴木さんより下記の文章を頂きました。


「卵子の老化」について思うこと

鈴木りょうこ
フィンレージの会ニューズレター 第117号(2012年10月13日発行)掲載

 

過日、フィンレージの会事務所にNHKの記者さんが来ました。今年2月に放映された『クローズアップ現代』と6月の『NHKスペシャル:産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜』の取材・制作に携わった女性です。このテーマへの感想や意見、今後の支援や啓発のあり方などについて話を、ということでした。

実は私自身は番組を観ていません(その後のレビューは読んでいますが)。もともとTVはほとんど観ないのと、このテーマだと観れば気持ちが乱れるだろうな、と思っていたからです。

しかし、番組を契機として「卵子の老化」という言葉はあたかも流行語(?)になったような気配もあり、記者の方にお話したことも含め、この件について少し思っていることを書きたいと思います。

 前述のように、「卵子老化」はなんだか社会事象、不妊の問題を表現するひとつのキーワードにもなった感があります。

9月13日付毎日新聞も、連載『こうのとり追って:第5部・考えよう妊娠、出産』で〈2 卵子の老化「知らなかった」〉という見出しの記事を掲載しています。本文には【もし、若いうちに卵子が老化すると知っていたら】【だが年齢が上がると、卵子が老化して、妊娠しにくくなる。そのことを斉藤医師(筆者注:国立生育医療センター不妊診療科医長)が患者に説明すると、ほとんどの患者が「知らなかった」と答えるという。】とあります。

加齢により妊孕力が低下するのは私にとっては常識でした。一般に35歳以上の妊娠は「高齢妊娠」と呼ばれ、受精卵の染色体異常が増加すること、また妊娠高血圧症候群(いわゆる妊娠中毒症)などの合併症のリスクや分娩時のリスクも高くなることなども、知識としてはありました。私の年代(1960年代生まれ)だと、多くの方がなんとなくではあってもこうした知識を持っていたのではと思います。実際、フィンレージの会でも、発足のころ(私が30代だったころ)は治療の区切りを「40歳(あるいは42歳)」にしていた方が多かったと記憶しています。「卵がとれない」「体外受精を繰り返しているが妊娠しない」と嘆く方も、多くは30代半ばでした。不妊専門医が「33歳とか35歳を過ぎると卵がガタッととれなくなるんだよね。だから治療を始めるならできるだけ早く来てほしい」と話していることも、よく話題になっていました。

しかしここ10年、特に最近は30代後半で結婚、40代で治療という方がとても多くなり、この嘆きもその世代の方から聴かれることが多くなりました(会員さんの平均年齢が現在はたぶん40代になっているであろうことも影響していますが)。

正直、42歳、43歳、あるいは45歳などの年齢の方のこうした嘆きを耳にしても、私はもう言うべき言葉がみつかりません。年齢から考えて、妊娠はかなり難しい。確率的に低い。体外受精を受けるにしても、それはダメモトくらいに考えないとできないかもしれない。またそれは子どもを得るためではなく、自身が納得するためかもしれない。そうやって少しずつ、自分の状況を呑みこんでいくしかないかもしれない……。

嘆かれている方には、たいていそんな話をしています。

 それはさておき、私は最近「卵子の老化」という言葉、表現に違和感を持つようになりました。

加齢による妊孕力の低下は、身体の摂理です。

日本人女性の閉経は平均で50〜51歳。前後10年は更年期ですから、一般には45歳からは更年期。ちなみに〈更年期〉をキーワードにネット検索をすると、「女性の卵巣の働きは30歳ぐらいをピークにゆるやかに低下し始める」「卵巣機能がストップするとやがて閉経」などの記述が多数出てきます。そう、正確には「卵子」だけが“老化”するのではなく、加齢で卵巣機能が低下するのですね。

 NHK記者さんに対し、同席したスタッフのNさんは「卵子老化という言葉には“人”が見えない」というニュアンスのことを伝えていました。私も同感です。卵子がただの細胞のように聞こえる。「卵子老化」という言葉、イメージが先行し、「なら卵子の若返りを」「若い女性の卵子をもらう」という感じに話が流れていきそうな危惧を抱きます。

また、NHK記者さんは「加齢による卵子の老化に苦しむ女性に、どのような支援を訴えればよいか」と問いかけられたのですが、この問いも何か変というか、ねじれがあるように感じます。

少なくとも私自身は「加齢による卵子の老化」に苦しんだのではない。「子どもができないこと」に苦しんだのです。課題は「子どもができないこと」であり、「卵子の老化」ではなかった。繰り返しますが、課題を「卵子の老化」としてしまうと、結局は前述のような「若返り」など、「vs加齢」「vs老化」といった科学的解決/技術的解決に陥ってしまうのでは、と。(ついでに言えば『加齢による不妊』もおかしな言葉だと思っています)

 体外受精や顕微授精が“あたりまえ”の不妊治療ワールド(?)に入り込むと、卵子や精子があたかも“ワタシ”から独立した—切り離された—“モノ”“細胞”のように思えてしまう/思わされてしまう、扱われてしまう/扱ってしまう……ことがあるように思います。

しかし、卵子や精子はまぎれもない“わたし”の一部。その“わたし”が愛しいと思う別の“人”と出逢い、そうして新しいいのち/人格が誕生する。うまく言えませんが、そうした大切な、いのちの“かけら”。

 不妊の悩み・苦しみは、とても人間的な悩みだと考えています。たくさんの感情を持ち、迷いながら生を営む人間=“わたし”丸ごとの悩み。体外受精や顕微授精は「科学」「技術」に過ぎず、この悩みを助ける「方法」を提供することはあっても、本質的な意味での「解決」「解消」を導いてくれるわけではありません。あたかも修理・交換ができるような感覚で卵子・精子を見つめること、あるいは「卵子老化」をキーワードに不妊を語ること―いってみれば科学的解決をめざすこと―は非常に危うい。それは、ともすれば“わたし”の人間性を損ね、また不妊の人間的な解決——それぞれが不妊を自分の人生の中でどう位置づけていくか——を見失うことになりはしないかと思うのです。

 今号のニューズレターではこの夏開催された「iCSi会議」「日本生殖看護学会」という2つの大きな会議の報告も掲載していますが、この会議でも「提供精子・卵子による妊娠」は大きなテーマでした。どちらの会議もそれ(提供精子・卵子)が自明の選択肢のように語られている印象があり、いまこの項を書いている私は、まずその大前提に疑問を投げかける作業も大切なのではと思い始めています。

不妊の「解決」を、「科学」から「人」の手―人間的な営みの中での取り組み―に取り戻すために。(すずき)

シンポジウム後援 生殖細胞および受精卵のゲノム編集と私たちの未来 -コンセンサスのあり方を問う-

2019年10月6日(木)成城大学において、当会も後援団体に加わった下記イベントが実施されました。(終了しました)


科学技術社会論学会シンポジウム

生殖細胞および受精卵のゲノム編集と私たちの未来
-コンセンサスのあり方を問う-
(リンクはこちら

代表の柳原はシンポジウムの企画委員としてオーガナイズと運営に携わりました。当日は盛況のうちに終了しました。参加して下さった方々にお礼申し上げます。

これまで受精卵や胚の社会的地位は、ヒト胚を用いる研究のあり方や、胚の尊厳に対する抽象的な概念から議論されることが多くありましたが、それらが実際に「人」になる事態が現実化した今、受精卵・ヒト胚に関する問題は、もはや実験室に留まることなく、代理出産をはじめ「第三者の関わる生殖技術」と接続される段階に及んだと言えるでしょう。これらの問題についても、当会で議論していく必要性を感じています。(文責:柳原)

2018年3月2日共催シンポジウム報告

「Fear, Wonder, and Science:リプロダクティブ・バイオテクノロジー新時代における科学と社会」報告

2018年3月2日(金)17:30~20:30  於:東京ウィメンズプラザ・ホール

概要

本シンポジウムは2017年8月に出版された共著による『Fear, Wonder, and Science in the New Age of Reproductive Biotechnology』(生殖テクノロジー新時代の不安、驚異、科学)。の著者、スコット・ギルバート氏、クララ・ピントーコレイア両氏を招いて開催された。

本書は発生生物学、そして科学史についての膨大な知識と情報、そして類いまれな洞察を持つ両氏による一般向け(特に学生等)に向けた書籍であり、両氏の補完的・応答的な記述は、現代生殖技術をどう考えていけばよいのか、重要な視点を提供してくれている。ちなみに序文はダナ・ハラウェイ。邦訳の待たれる一冊。

Scott Gilbert, and Clara Pinto-Correia, Fear, Wonder, and Science: in the New Age of Reproductive Biotechnolog, Columbia Univ Pr, 2017/8/8

登壇者

◎スコット・ギルバート Scott F. Gilbert

米国の進化生物学者、歴史学者。その名を冠した『ギルバート発生生物学Developmental Biology』(メディカルサイエンスインターナショナル)は発生生物学の〝バイブル〟とさえ言われ、2019年現在、第10版を重ねる。他に『生態進化発生学―エコ‐エボ‐デボの夜明け Ecological Developmental Biology: Integrating Epigenetics, Medicine, and Evolution』(共著,東海大学出版会)も有名。

◎クララ・ピント-コレイア Clara Pinto-Correia

ポルトガル在住。発生生物学者、自然史家、科学史家、作家、ジャーナリストとしてポルトガル国内では有名である。邦訳は下記の『イブの卵』しかないが、『イブの卵』は17-18世紀に栄えた前成説の歴史を膨大な資料をもってたどった書として評価も高い。

Clara Pinto-Correia, 1997 The Ovary of Eve: Egg and Sperm and Preformation , University of Chicago Press. U.S.A=佐藤恵子訳『イブの卵—卵子と精子の前成説』白揚社,2003

◎鈴木良子(フィンレージの会)

「日本の生殖医療の歴史と現状報告」報告内容

コメンテーター

柘植あづみ(明治学院大学)

Chia-Ling Wu(台湾大学)

シンポジウム内容

ギルバート氏の講演タイトルは「精子伝説 LEGENDS of the SPERM」。受精という現象は、従来「億単位の精子が卵子に向かって競争(闘争)し、勝ち残った〝ヒーロー精子〟が卵子を手に入れる/卵子はヒーローのクエストの報酬、すなわち救いを待つ乙女/精子はドリルのように卵子に穴を開けて侵入する」というイメージで語られてきたが、これらは間違いであるとする。近年の発生生物学の知見により、受精—発生は、精子と卵子の段階的な相互作用で進むことが明らかになっている。たとえば、卵子およびその周辺細胞は精子を活性化させ、卵子へ誘導する。到達した精子は卵子に穴を空けて入り込むのではなく、卵子に寄り添い(このとき卵子もまた活性化する)、やがて卵子と融合していく。前述のような精子・卵子に対する間違ったメタファー(ヒーロー精子と乙女卵子)は文化的に作られたものである。さらに、着床も、胚と子宮、相互の協力によって進む。

ピント–コレイア氏の講演タイトルは「生殖技術と現実—奇跡はない!ART & Reality-There are no miracles!」。現状のART(体外受精・顕微授精)について、このままでいいのか、と投げかける。患者は「子が欲しい」「信じたい」と思うからこそクリニックに行く。しかしARTの妊娠率、出産率は特に大きく上がっておらず、データが虚偽の場合もある。リスクもある。不妊クリニックは巨大なビジネスとなっている。また〝優れた遺伝子〟という幻想を追うカップル(ノーベル賞男性の精子、ブロンド女性の卵子等)、代理出産の問題なども。特に代理出産は生物学的には自分の子と言えないのでは? 養子とどこが違うのだろうか?

コメンテーター・柘植氏の「不妊治療を受けても妊娠しないとき、患者は医師の想定通りに反応しない自分の身体が悪いかのような気持ちになる」「成功率が低いことや危険を知った上でなお不妊の人が生殖補助医療を受け入れるのはなぜだろう」という投げかけに対しては、ピント–コレイア氏は「自分を責めるのは世界共通。世俗的な言い方だが、いつでも『女のせい』。不妊も女のせい。エデンの園を追われたのもイブのせい。不妊の人は自分を〝異常〟と捉えてしまい、治療から降りられない。そうした負のスパイラル、そして技術の見直しの時期に来ている」とした。自身も数回の体外受精を経験、その後養子を迎えたピント–コレイア氏の話は、日本社会が不妊—生殖技術の「何を」を問題と捉えていけばよいのか、あらためて示唆したように思う。

Chia-Ling Wu呉嘉苓氏(台湾大学)は、スライドを用い、台湾における生殖技術の話題として「多胎妊娠 Multiplets’ Troble」「素晴らしき新家族 Brave New Family」を挙げた。日本では1996年に日本産科婦人科学会が、体外受精・顕微授精において移植する胚の数を原則3個以内とする会告を出した。台湾では2005年に台湾生殖医学会(Taiwan Society for Reproductive Medicine:TSRM)のガイドライン、また2007年(人工生殖法が成立した年)に国レベルのガイドラインが出されたが、その胚移植数は「4個以下」のため、双胎またはそれ以上の多胎妊娠が防げていない。女性と産まれる子の健康を脅かしている。もう一つの「素晴らしき新家族」はLGBTの家族形成である。台湾ではレズビアンカップルがドナー精子による人工授精によって、ゲイカップルが代理出産によって児を得るケースが出てきている。いずれも渡航生殖による。さらにシングル女性が生殖技術を利用する権利なども考えていかなければならない事柄だとした。

 


台湾に関する追加情報

*2019年5月24日TAIWAN TODAY 「台湾、アジアで初めて同性婚合法化へ」(2019年6月11日アクセス)

*2019年5月8日 毎日新聞「麗しの島から/台湾で急増する子育て中の同性カップル」(2019年6月11日アクセス)

なお、同シンポジウムは「ふぇみん」3186号(2018/05/05)5面「東京で生殖技術に関する講演会・シンポジウム 無批判に巨大化する不妊治療/科学も文化に影響される」で紹介されている。同3185号(2018/4/25)でクララ・ピント‐コレイア氏のインタビュー『「不妊は自然なこと」と性教育で』も掲載。インタビューの一部はこちらでも読める。

(文責:鈴木R)

日本の生殖技術の歴史と現状(シンポジウム報告内容)

2018年3月2日に開催された、本会共催シンポジウム「Fear, Wonder, and Science:リプロダクティブ・バイオテクノロジー新時代における科学と社会」に登壇なさった、フィンレージの会の鈴木良子さんによるパワーポイントの報告内容(PDF)を掲載します。

不妊治療を受けた立場から論じる、日本の不妊治療の現状への問題提起です。

資料へのリンクはこちら

 

世界の代理出産反対運動

  • Stop Surrogacy Now

フェミニストを含め、代理出産当事者や宗教関係者など多様な人々が参加する国際的な代理出産反対キャンペーン。活動の拠点は米国。本キャンペーンのサイトはこちら。本会の代表が翻訳した日本語版も掲載されている。キャンペーンの日本語名は「今こそSTOP!代理出産」。

  • No maternity traffic

ヨーロッパの国際的代理出産反対運動。サイトはこちら。会の前身は“International Union for the Abolition of Surrogacy(代理出産廃止のための国際連合)” サイト内に代理出産の問題についてまとめた資料あり。たとえばこれとかこれ

  • FINRRAGE (Feminist International Network of Resistance to Reproductive and Genetic Engineering) 

生殖および遺伝子工学に抵抗するフェミニストの国際ネットワーク。日本の「フィンレージの会」は別団体。 リンク

  • COLLECTIF POUR LE RESPECT DE LA PERSONNE(CoRP)

フランスの代理出産反対団体 リンク

同団体による映像「代理出産:代理母は何を経験するのか?」ではアニメーションと共に具体的な説明がなされている。(英語字幕)

  • Feministas Mexicanas contra Vientres de Alquiler – Femmva

メキシコのフェミニストによる代理出産反対団体 リンク

「代理出産を拒否するフェミニスト」。スウェーデンの女性団体。リンク

  • Feminist International Network:Against Artificial Reproduction Gender Ideology Transhumanism

イタリア「生殖技術 ジェンダーイデオロギー トランスヒューマニズムに反対するフェミニスト国際ネットワーク」リンク

 

医学関連の国際機関

  • 国連

2018年3月に国際連合人権理事会において、代理出産と子供の売買に関する議論が行された。その記事はこちら

この議論では特別報告者の意見に基づいて,代理出産の普及が子供を商品化の危険に晒すと警告している.報告書のリンクはこちらから。

  • イスタンブール宣言(臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言)

宣言のサイト(英語) 宣言日本語版 2008年 2018年

日本では臓器移植を推進する宣言として解釈されがちだが、本宣言の論点は、臓器移植の是非や推進ではなく、不正な臓器取引の根絶にある。本宣言では、他国民が自国民の移植機会を奪う「移植ツーリズム」を明確に「非倫理的」と論じている。

イスタンブール宣言の存在は、たとえ代理出産や卵子提供といった方法が日本で合法化されたとしても、米国人女性やロシア人女性、ウクライナ人女性など外国人を利用する現行の「生殖ツーリズム」は正当化できないことを示すことになろう。

  • ESHRE (European Society of Human Reproduction and Embryology)

学会のサイト 本学会の代理出産に関するレポート

「最終的手段」としての代理出産は受け入れられるとするが、商業化には反対。

  • FIGO(The International Federation of Gynecology and Obstetrics)

連盟のサイト 日本産科婦人科学会も参加。

インドの代理出産について上記 ESHREとの合同声明を発表している。こちら

FIGOによる2007年の代理出産に対するガイドラインのテキストはこちらから読める。