映画上映企画に関する会議+第8回研究会

  • 日時:2013年8月28日(水)14:00~17:00
  • 場所:東京大学本郷キャンパス法文2号館3階 第三会議室
  • プログラム
    14:00~14:30 映画上映企画に関する会議(どなたでも参加可能です)
    14:30~17:00 第8回研究会
  • 研究会報告者: 柳原良江(東京大学)
  • 報告タイトル
    NHK報道番組にみる代理出産の位置づけの変遷--「科学」と「アメリカ」で紡ぐイメージ
  • 概要
    報告者はNHKの協力のもと、代理出産を中心に生殖技術に関する過去の番組を視聴し、 マス・メディアにおける本行為の位置づけと、その文脈の変遷を辿ってきた。本報告では、 それらの調査結果より、日本における代理出産の文化的解釈について示した。NHKでは1978年のIVF児誕生を嚆矢に生殖技術が扱われるようになった。そこでは、 科学の進展に対する素朴な賛美と同時に、技術利用に対する違和感も描かれている。 そのような相反する解釈は、それぞれの生殖技術に特定のイメージを付与することで 綴られていった。そこでは特に外国の持つイメージが利用されている。例えば科学知の「荘厳さ」には「イギリス」が、科学が暴走する「野蛮」には「アメリカ」が用いられる。このような背景のもと、日本人がアメリカで実施した代理出産事例が生じると、番組は「アメリカ」の持つ肯定的な記号を利用しながら、代理出産事例を伝えていく。「アメリカ」 の「科学」は日本にとって従うべき「規範」となり、代理出産の利用と容認は、世俗な家族制度からの「解放」そして日本の「近代化」と位置づけられる。こうして代理出産に対する肯定的なイメージの積み重ねがなされた後に、日本では独身男性がインドで依頼した代理出産による「マンジ事件」が生じた。その時期から、番組で代理出産に対する議論は行われなくなった。すなわちマンジ事件を境に、NHKは沈黙するようになったのである。

    本報告後半では、上記の語りと、その後訪れた沈黙の文化的背景について考察した。そこでは「アメリカ」の持つ「意味」に焦点を当て、ジェフリー・C・アレクサンダーや、吉見俊哉の技術論を援用しながら分析した。それらの論考の結論として、NHKが沈黙した理由は、参照枠組みとしての「欧米」を喪失したためではなく、日本文化が「科学」に付与する共通理解が影響している事を示した。