ロシアの状況

2017年12月現在

法律

ロシアでは、1995年に採択された家族法51条と53条で代理出産に関する言及がなされ、代理母の同意によって、「みなし親」(intended parents)は、出生証明書に記載されることが定められた。また最新の法では、新健康管理法の55条(new health care bill, article 55)で代理出産を含めた生殖補助技術(ART)と代理出産の利用について定めている。この新健康管理法を含め、ロシアのこれまでの法律は、有償・無償の別なく代理出産の実施は合法である。

ロシアはかねてからヨーロッパ在住者の生殖アウトソーシング先として有名であった。近年になり、インドやタイ、ネパールなど、主なアウトソーシング先であったアジア各国が代理出産を禁止し始めたことに伴い、ロシアも含め、ウクライナ、ジョージアなど東欧の国々が、ヨーロッパ在住者に限らずアメリカ人も対象に、世界的な生殖アウトソーシングの場として知られるようになっている。

代理母の受け取る報酬は、ロシアの平均的な教員の1年半分に相当し、金銭面で動機づけられたロシアの貧困女性が大挙して志願している。それは表面上は「同意」でありながらも、女性たちが「喜んで他人に身体を貸す」ことの「経済的な強制」だと批判されている。2

この現状に対し、かねてからロシアのキリスト教信者の殆ど(96%以上)が属するロシア正教会は、2013年には代理出産を「神への反抗」、「幸せファシズム」などと強く批判しており、同年に議会でも禁止法案が検討されてきた。3 とりわけ商業的代理出産は厳しく批判されている。2014年にロシア連邦議会下院「家族・女性・子供委員会」委員長は、部分的に代理出産を容認するものの、商業的代理出産は禁止すべきとの見解を示している。

代理出産の禁止を求める議論は2017年3月に再燃し、禁止法が再検討され、4 2017年11月には、代理出産をロシア国内で禁止されている売春に例えた上で、Anton Belyakov上院議員が禁止法案を提出した。5、6

1 https://www.huffingtonpost.com/entry/surrogacy-ukraine-russia-georgia-czech-republic_us_595fa776e4b02e9bdb0c2b47 (2018年2月24日訪問)

2 ‘Mutiny against God’: Surrogacy in Russia thrives thanks to lack of regulation, published on Nov 28, 2017, https://www.lifesitenews.com/news/mutiny-against-god-surrogacy-in-russia-thrives-thanks-to-lack-of-regulation (2018年1月31日訪問)

3 Russian Lawmaker Proposes Ban on Commercial Surrogate Motherhood ”The Moscow times”, issued on April 24 2014. https://themoscowtimes.com/news/russian-lawmaker-proposes-ban-on-commercial-surrogate-motherhood-34637 (2018年1月31日訪問)

4 Bill banning surrogacy reaches Russian lower house of parliament published on March 27, 2017. http://www.rapsinews.com/legislation_news/20170327/278106535.html

(2018年1月31日訪問)

5  Russia Considers Ban on ‘Immoral’ Commercial Surrogacy Industry, published on Nov. 23, 2017

https://www.newsdeeply.com/womenandgirls/articles/2017/11/23/russia-considers-ban-on-immoral-commercial-surrogacy-industry (2018年1月31日訪問)

6 Russian surrogacy, controversial and unregulated, published on 24 Nov 2017

https://www.bioedge.org/bioethics/russian-surrogacy-controversial-and-unregulated/12528 (2018年2月10日訪問)

【参考文献】

  •  E. Scott Sills (ed), 2016, Handbook of Gestational Surrogacy: International Clinical Practice and Policy Issues, Cambridge University Press.

共催イベント〈科学と社会シンポジウム〉

Fear, Wonder, and Science:リプロダクティブ・バイオテクノロジー新時代における科学と社会

日程

2018年3月2日(金)17:30~20:30 (開場17:00)

場所

東京ウィメンズプラザ/ホール(表参道)→場所のリンク

概要

昨年夏に刊行された生殖技術に関する一般向け書籍『Fear, Wonder, and Science in the New Age of Reproductive Biotechnology』(生殖テクノロジー新時代の不安、驚異、科学)。発生生物学者・科学史家の著者2名によるレクチャーを通し、発生生物学最新の知見からみた生殖医療の現状と、これに関連する社会的課題を議論します。

プログラム

  • 講演1:スコット・ギルバート
    (アメリカ・スワースモア大学、フィンランド・ヘルシンキ大学)
  • 講演2:クララ・ピント-コレイア(ポルトガル・ルソフォナ大学)
  • 日本の生殖医療の歴史と現状報告:鈴木良子(フィンレージの会)
  • コメンテーター:柘植あづみ(明治学院大学)、Chia-Ling Wu(台湾大学)

*入場無料・参加申込み不要
*同時通訳あり(レシーバー使用:先着100名)

共催

  • 代理出産を問い直す会
  • 総合研究大学院大学先導科学研究科「科学と社会」分野

    協力

  • 東京大学情報学環佐倉研究室

お問い合わせ

総研大・水島 mizushima_nozomi★soken.ac.jp(★を@に変えて下さい)
Facebook: https://www.facebook.com/Fearwondersympo


翌3/3(土)14時から、総研大主催のイベントとして、東京駅近辺にて、クララ・ピント-コレイア先生の単独セミナーも実施します(定員20名)。詳しくは上記問合わせ先まで。

【印刷用チラシ】

各種機関の声明文、判決文、その他関連団体

日本学術会議報告書 (2008年4月8日)

「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて―」リンク
代理出産は原則禁止。例外的な試行のみ認める。

日本産婦人科学会

生殖技術に関する会告一覧 リンク
代理出産関連は、2003年4月「代理懐胎に関する見解」会告にて禁止 リンク

日本弁護士連合会

生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言 2000年3月 リンク
胚の提供・代理母・借り腹(ホストマザー)を禁止。商業主義を禁止し、違反に対しては刑罰を科すことを提言する

品川事件(TVタレント夫妻による米国への渡航生殖の事例)

最高裁判所第二小法廷平成19年3月23日判決  全文へのリンク
1 民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものとして,我が国において効力を有しない。
2 女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産した場合においても,出生した子の母は,その子を懐胎し出産した女性であり,出生した子とその子を懐胎,出産していない女性との間には,その女性が卵子を提供していたとしても,母子関係の成立は認められない。

SOSHIREN 女(わたし)のからだから

刑法・堕胎罪の撤廃を求めるフェミニストらによるグループ。
生殖技術に関する意見書・声明も出している。声明一覧へのリンク

第三者の関わる生殖技術について考える会

代理出産、卵子提供、非配偶者間人工授精(AID)について扱っている。AIDで生まれた人も参加し、それらの技術に批判的な意見を述べている。リンク

非配偶者間人工授精(AID)で生まれた人の自助グループ(DOG)

実際に生まれた人々によるグループ。慶応大学におけるAIDを含め、様々な形式のAIDで生まれた人が参加している。 リンク
*このグループに連絡を取りたい方は、本会代表の柳原にメールを出して頂ければ、先方におつなぎします。代表の連絡先はこちら

 

代理母出産(借り腹)、代理出産、代理懐胎の表記について

丸岡いずみ氏に関する報道、また本人の手記では、他者の卵子を用いた受精卵で女性を着床・妊娠させ、生まれた子を得る契約出産を「代理母出産」としています。本表現について、現時点(2018年1月28日)で幾つかのマスメディアで、丸岡いずみ氏の表記に倣い「代理母出産」とするほか「代理出産」とするなど、表記にブレがあります。

日本では元々、誰の卵子かによらず、生まれた子を引き渡すことを前提に妊娠・出産を行う<契約妊娠>を「代理出産」と表記していました。それはアメリカの代理出産斡旋業者の支店として日本で初めて代理出産ビジネスを実施した「代理出産情報センター」(鷲見ゆき代表)や、自ら経営するクリニックで姉妹、母娘間で代理出産を実施した根津八紘医師による表記、また衆議院議員野田聖子氏が用いた表記にも共通するものです。

一方、大衆向けの雑誌記事では、他者の卵子による受精卵を体外受精して実施する代理出産を「代理母出産」かつ「借り腹」、人工授精による代理出産を「代理出産」と表記する例が見られます。本表記の初出は、恐らく上述の斡旋業者、鷲見ゆき氏が自らの斡旋業の名称を「代理母出産情報センター」に変え、体外受精を伴う「代理母出産」と人工授精を用いる「代理出産」を区別して論じた事に端を発していると考えられます。1

これ以降、マス・メディアを中心に、「代理母出産」と「代理出産」を区別する表記が現れますが、その区別は必ずしも厳格ではなく、時には反対の意味で(すなわち人工授精による代理出産を「代理母出産」、体外受精で依頼者の卵を用いた代理出産を「代理出産」)用いられる事もありました。2

上記に加え、他者の卵を用いる契約妊娠、つまり上記の区別に従えば「代理母出産」に対しては、長らく「借り腹」という表記が用いられてきました。これは体外受精を用いた代理出産が、学術的には「ホスト型代理出産」「ホストマザー型」と表記されていたことに由来する表記です。この表記は、大衆向けのメディアや専門書の別を問わず、広く使用されていました。例えば日本弁護士連合会が2000年の提言でこの表記を用いています。3

2000年代になると米国では、不妊治療に従事する医療者により、体外受精を用いた代理出産では、もはや代理母は遺伝的に親ではなく、motherの表現はそぐわないと見做す見解のもと”Gestational Surrogacy”の用語が好んで用いられるようになりました。それに伴い日本国内では、本用語の日本語訳として「代理懐胎」の表記が用いられ、これが現在まで、医療者を始め自然科学の領域を中心に、日本の学術的な議論でしばしば用いられています。

一方、2008年にジャーナリストの大野和基氏が「人工授精型代理出産」「体外受精型代理出産」の表記を産み出し、それ以降、とりわけ人文系の学術的議論では、この用語が利用されるようになっています。

本会では「代理懐胎」の語源が、代理母の存在を無視・軽視する意図を孕んでいた事と、大野氏により「人工授精型代理出産」「体外受精型代理出産」と、二つの形式の代理出産を明確に区別する用語が表れた事により、「生まれた子を引き渡す目的で行われる契約妊娠」を従来通り「代理出産」と呼んでいます。ただし近年では、性行為を経る「代理出産」も存在しており、この様な事例に関しては、「古典的代理出産」など、また別の表記が必要だと考えています。

なお、代理出産に対する上記の定義(生まれた子を~契約妊娠)は、本会が定めたものではなく、これまで代理出産を論じる際に、英語圏の議論で長らく用いられてきた概念です。


 

 

1.初出は、雑誌『女性自身』1995年9月12日発行号の226-229頁。
2.たとえば『女性自身』、2002年3月12日発行、30頁。
3. 日本弁護士連合会 生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言(2000年)リンク

 

声明文

自民議員有志による「生殖補助医療に関する法律骨子素案」に対するコメント

 去る2012年6月10日付け毎日新聞に「代理出産 容認を検討 自民議員有志が法案素案」との記事が掲載された。 これによれば、「卵子提供や代理出産など第三者がかかわる生殖補助医療について、自民党の議員有志がこれらを条件付きで容認する内容の法案の素案をまとめた」とあり、同法律素案(以下:素案)の内容には「提供された精子、卵子、受精卵を使った体外受精を認める」うえ、代理出産に関して「子宮がないなど医学的に妊娠能力のない夫婦に限り、家庭裁判所の許可を得た上で実施する」ことなどが含まれるとされる。本素案に関し、メディアでの公表後5ヶ月を経過した現時点でも素案が棄却されたという報告はなく、今後、仮に具体化のため推進されるとすれば大きな問題を引き起こす事態が懸念されることから、当会はこの動きに対し深い憂慮を表明する。

素案には、代理出産、卵子提供、精子提供に関して、諸外国はもちろん日本国内で積み上げられてきた議論や当事者の意見が何ら反映されていない。特に代理出産に関しては、2008年に提出された日本学術会議報告書「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題-社会的合意に向けて」が示したように、医学的問題、家族関係において生じる問題、女性を産む道具として扱う倫理的問題、人身売買、子どもの福祉など、既に数多くの問題が指摘されている。そして本声明文の後半で述べる様に、これらの問題に対し現状では何ら対策が見出されていない上、本声明文後半に示すように、報告書が提出された後も次々と新たな問題が表面化している。

このように問題が放置された中で、仮に素案のような法律が成立すれば、日本の生殖医療が混乱に陥るのみならず、今後の日本を形成する若い世代の人々の性と生殖の健康、尊厳、そして生まれる人々の人権が侵害される危険性が大きい。これらの問題意識を踏まえ、当会は、とりわけ代理出産に関して、本素案の全面的な撤回はもとより、それらの実施を全面的に禁止する法律を整備することを提言する。

以下に本結論に至った具体的な理由を説明するとともに、社会的に追いつめられている当事者に対し別の形による援助の必要性を述べる。


 1.代理出産の「条件付き容認」をめぐる諸問題

素案は、代理出産の扱いに対し「子宮がないなど医学的に妊娠能力のない夫婦に限り、家庭裁判所の許可を得た上で実施する」と言明している。日本の今までの議論では、代理出産を限定的に認める場合、しばしば生まれつき子宮を持たない女性、または子宮を摘出した女性への適用が提唱されてきた。しかし子宮を持たない女性だけが代理出産という「他者の身体を利用する特権」を与えられる理由は何であろうか。ある人が妊娠・出産できない身体を持つ事実は、いかなる理由や経緯であれ同じであるにも関わらず、子宮の有無にのみ基づいてこのような特権を付与するのであれば、子宮はあるが別の疾患を持つ人に対する新たな差別が生み出される。現にイスラエルでは、近年になり、子宮を持たない女性ではなく、子宮があっても妊娠・出産に耐えうる体力を持たない女性による依頼する事例が増加している。1

次に金銭授受の問題がある。素案には「営利目的の代理出産には罰則を設ける」とあるが、「無償」ならば問題はないのだろうか。無償であることを条件に代理出産を容認する国や地域でも、代理母への経費の受け渡しは認められているが、近年では、妊娠という“労働”に見合わない事を理由に、経費以外の報酬も容認するよう求める意見が生じている。事実、経費以外に「プレゼント」の形で代理母と依頼者の間に経済行為が行われており2、将来的に「無償」という条件が形骸化することは必至である。

また、そもそも依頼者と特定の関係にない第三者が「ボランティア」で妊娠を請け負う形式が想定されているのであれば、それ自体が非現実的な発想でしかない。日本では、過去に諏訪マタニティークリニックの根津医師がボランティアを募りアンケートを実施したものの、そこで示された代理母役割に応える女性は皆無であった。これらを踏まえると、日本で第三者が代理出産を実施する場合には、何らかの商業的行為として成立すると考える方が自然であろう。

このような現状において、無償に限定して容認を認めるとすれば、結果として完全な“無償”の「ボランティア」となりうる立場にある近親者(実姉妹、義姉妹、実母、義母、従姉妹等)への圧力が高まることが懸念される。特に経済的・社会的に弱い女性を対象とする行為である側面から、こうした事例の積み重ねは生体間臓器移植の事例にも増して「近親者がそれを行うべき」という規範を容易に作り出すものと考えられる。

2.「医の倫理」と「子の福祉」に反する行為として

医の側面から
代理出産は依頼夫婦の身体を治療するものではない。それゆえ第三者に実施される「身体改良」であっても「医療」ではないし、医療者は他者を人為的に妊娠させることにより、第三者の心身を危険に晒している。

日本における周産期死亡率は、技術の進歩や関係者の努力によって非常に低く抑えられているとはいえ、妊娠および出産そのものが依然として健康と生命に関し無視しがたいリスクを伴うものであり、現に米国では代理出産による死亡例も存在する3し、近年では、複数回の代理出産後、子宮破裂・子宮摘出となった事例も報告されている。4そのような医学的リスクの可能性も認知していながら代理出産を実施するのであれば、その医療者は誰の健康状態も改善しないばかりか、故意に他者の身体に危害を与え、医の倫理に明確に反する行為を実施することとなる。

とりわけ子どもの立場に立ったとき、「医の倫理」が抱える問題は深刻である。現時点で代理出産、卵子提供、胚提供など、母胎と遺伝的に繋がらない子が抱える医学的リスクについては、まだ実験的な段階でしか判明していない。すなわち現実に行われている行為は全て臨床試験という性格をもち、生まれる子どもたちは、同意のない被験者となっている。

社会的側面から
代理出産は、社会的に「子の福祉」を害する側面をもつ。代理出産の受託者が事前に「同意」したとしても、妊娠期間を通じて胎児との結びつきを感じ、出産後に子の引渡しを拒否した事例はすでに広く知られているし、代理出産によって生まれた子が依頼者夫婦の子であることを事前に定める法律を作ったとしても、実際の子の特徴(性別や障がいなどを含む)が依頼者の希望に合わなかった場合には引き取りを拒否したり、事実上養育を放棄することも考えられる。現に外国にはすでにそのようなケースが存在し5、それらが日本でのみ生じない保証はどこにもない。.

3.追い詰められた依頼者たちへの心理的・制度的援助の必要性

 上記の理由により、代理出産はいかなる形態でも社会として正当化・合理化されえず、禁止されるべきである。もちろん、それぞれの人が「子どもが欲しい」という欲求(子ども願望)を抱くことは、社会的・一般的に是認されるものであるが、そうした願望は、あらゆる限度が取り払われてしまうほどに膨張する場合もある。技術的に可能でさえあれば、どれほどのリスクがあろうとも、どれほど費用がかかろうとも、どのような方法によろうとも「自分(たち)の」子どもを得たい、そうした願望に支配されてしまうような場合には、生殖医療を用いるに先だって心理的および社会的なサポートが必要とされる。近年では、このように代理出産しか救われる道はないと思わせてしまうような社会、家族概念のあり方が問題である事実も、広く認識されるようになっている。

それゆえ本会は、代理出産に対する、より抜本的な解決手段として、その禁止を求めることに加え、代理出産の実施を願うほど追い詰められた人々に対する心理的・制度的援助(心理社会的相談、グリーフワーク、養親・里親制度へのアクセス等)の整備についても検討されるべきと考えているそのような援助の中で、当事者たちが閉じられた価値観に追いつめられることなく、パートナーと共に生きる生活について考えたり、養子を迎えたりすることなど、より現実的な選択肢を早くから検討する手助けをすることも可能となろう。

現在のように、追い詰められた当事者に対して、不妊治療現場の医療者だけに判断をゆだねるには限界がある。子ども願望をめぐるこのような強い感情の存在を前に、今後は産科医や看護師だけでなく、精神科医や臨床心理専門家などの協力体制のもとで、個々の当事者に寄り添うかたちでの医療体制が提案されるべきであろう。

以上

2012年11月7日
代理出産を問い直す会

    1. Elly Teman, 2010,“Birthing a mother: The surrogate Body and The Pregnancy Self“,p301.
    2. Seattle Times, “State House says paid surrogacy should be legal“ by Brian Everstine, February 15, 2010.
    3. 1987年10月のデニス・マウンスさん死亡例について、大野和基『代理出産――生殖ビジネスと命の尊厳』、集英社、2009年、115頁以下参照。また2012年5月16日にはインドで代理母が死亡は本記事
    4. 昨今では次の事例が報道されている。「代理母から届けられていた子宮破裂で全摘の悲劇」、『女性自身』、2012年7月、2548号、161頁。
    5. たとえばドイツの事例として、高嶌英弘「代理母契約と良俗違反 : ドイツの判決を素材にして」、「京都産業大学論集. 社会科学系列」10、1993年、44-71頁。

野田聖子議員の提供卵による妊娠と一部マス・メディア報道に関するコメント

    • 平成22年8月25日より報道されている提供卵を用いた野田聖子議員の妊娠は、野田聖子議員本人と、一部マス・メディアにより、国内の法律の不備を訴えるアピールとして報道されているが、この解釈は事実誤認である。
    • 野田議員は日本における「法の不在」を自ら作り出し、自身は渡米して卵子を購入した。これは立法者として持つべき良識から逸脱した行為であるし、野田聖子氏により歪曲された上記のストーリーを検証せずに伝えた一部マス・メディアの姿勢も倫理的に問題がある。
    • 本会は卵子提供に関して、代理出産と同様に身体の搾取や人体の道具化、生まれる子どもに苦悩が生じるなどの危険をもたらす点があることからその実施には慎重になるべきと考えている。
    • 上記見解の詳細について以下に述べる。

1.野田聖子氏による事実の歪曲

      1. 野田氏が作り出した法律不在

卵提供にかかる法整備が成立しなかったのは、野田氏は自らが2003年厚生労働省生殖補助医療部会報告書に基づく法案の提出を阻んできたことによる。(その経緯は『産婦人科の世界』の記事を参照)

同報告書はすみやかな立法を求めていたが、仮に野田氏が法案にさまざまな問題点を認めたのであれば、自らが中心となり実現可能な法案を整え、早期に国会に提出すべきであった。

その政治的責任を果たすこともなく国内の状況を放置し続け、海外で卵子提供を受けた事実は、政治家としての責任感を欠くのみならず、法の不在を「恣意的に」作り出した疑念さえ生じさせる。

国内の動向の無視

野田氏は、一患者として、自らの努力でJISARTの定める要件を満たすことにより、国内で配偶子の提供を受けることも選択できたが、一連の報道はこれらの動きにまったく触れず、一方的に議論の不在、法律の不在、関係者の「無理解」を強調している。

長期に渡り積み上げられ、既に存在する議論を敢えて無視する野田氏の姿勢は、国内の議論や状況を軽んじており、立法者として正当化できる判断とは考えられず、議員としての良識を欠いたものである。

1.養子縁組に対する印象操作

一部の報道では、野田氏が養子縁組を選択しなかった理由として野田氏本人の言葉を引用しながら、あたかも養子縁組制度やそれに基づく団体が野田氏を門前払いしたかのような、あるいは「厳しい条件をつきつける頭の固い団体」のような印象操作がなされている。

しかし養子縁組の際に提示される条件は、子どもの福祉を第一に据えた結果として定められたものであるし、そもそもこれらは親の保護を失った子のために整備された制度であり、子の欲しい親の欲求を満たす制度ではない。

実親の保護を失った子どもを迎える場合には、特別養子縁組、普通養子縁組のほか、里親、季節里親、週末里親などの制度もある。これらの選択肢に触れることなく「養子縁組」とひとくくりにし、野田氏の言い分のみを取り上げる報道は、事実を公平に伝えているとはいえない。

2.公人による情報操作への荷担

    • 上記の事実を確認せず、または敢えて無視した上で、公人である野田氏による、事実を歪曲化させた発言をアナウンスした一部マス・メディアの姿勢は、メディアが本来果たすべき責任を放棄したものである。

3.今回の卵子提供が持つ問題

  • 卵子売買として

報道によると野田議員は、米国の卵提供エージェンシーに数百万円を「支払った」という。 「善意の提供」と繰り返し述べるが、その実態は卵子の「売買」であり、人身売買としての倫理的問題を孕んでいる。

卵子提供は、排卵誘発剤の副作用による健康被害や、提供者が不妊になる可能性があり、身体的なリスクも少なくないうえ、米国での卵提供は、裕福な高齢者が、若年者の社会的な弱さにつけ込み、身体を不当に利用する側面をも持つ。たとえば、卵子提供・代理母出産情報センターの鷲見侑紀氏が、同センターが扱う提供者のほとんどが日本人留学生であると述べていたように、米国の卵子提供者は学生であることが多く、その産業構造は経済的に弱い若年女性の存在のもとに成り立っている。

またそれらは、長くAIDを実施してきた慶応義塾大学において、学生が自らの生殖のあり方や将来の家族形成に関して十分に認識しないまま、教員に促され精子を提供することになった事実が示唆するのと同じく、学生たちが自らが生殖に関わる事の重みについて十分に認識していない未熟さに人々が便乗し、提供者の将来への配慮を欠いた形で実施されている可能性もある。

上述の課題に加えて、2008年にインドで日本人男性医師が代理出産を依頼した事例にも象徴されるように、「生殖ツーリズム」が海外の貧困層の身体を搾取する行為として世界的に問題視されつつある現状では、卵子提供のあり方も国際的な枠組みで深慮せねばならず、その実施には慎重になる必要がある。

  • 生まれた子どもの抱える負担

近年、精子・卵子提供による生殖が、生まれてくる子へ大きな心理的負荷(アイデンティティの危機、遺伝的特質を遡れない事実への苦しみ)をもたらすことが次第に明らかになっている。日本でもAIDで生まれた人たちの自助グループや、彼らが中心となる「第三者の関わる生殖技術について考える会」が発足しており、カップル以外の第三者が生殖に関与することの問題性、子どもの心理的・法的課題について真摯に考えねばならない。

  • 高齢女性の負担

今回の事例では、ほぼ閉経期にある野田議員にホルモン剤を使用して生殖技術が進められていることが推察される。50代の実母が娘のために代理出産をした事例の問題とも関連するが、自然には分泌されない女性ホルモンを人工的に大量に投与することによる、女性の側の身体的負担は非常に大きい。

このような方法を用いた妊娠・出産を無批判に肯定・賞賛することは、同様の立場、年齢にある女性に、高リスクの妊娠・出産を期待したり強要する社会的風潮を生み出しかねず、この点についても熟慮が必要であろう。

以上

2010年10月1日
代理出産を問い直す会


諏訪マタニティクリニックにおける代理懐胎事例の報道に対するコメント

 2009年11月後半に一部メディアより、日本国内のクリニックにおいて、女性が遺伝的な孫を産む形での代理懐胎が実施されたことが報道されました。
本会は以下の見解から、親が孫を産む代理懐胎を遺憾な行為と捉えております。また代理懐胎の根底には、懐胎した当事者、依頼者、医療者の別に関わらず、女性の身体を「産む機械」と捉える眼差しが存在しております。このように女性の身体を貶める思想を普及させようとする当事者たちに対し、ここに強く批判の意を表明いたします。
  1. 身体的リスク
    閉経した女性を妊娠・出産させる行為が一般化すれば、高齢者が身体的リスクを伴いながらも、妊娠・出産を選択せざるを得ないような環境が形成される。それは高いリスクを伴っていても、妊娠・出産目的のためには、健康な身体をエンハンスメント(身体改造)すべきとの発想を普及させる。
  2. 「産む機械」としての発想
    年齢に関わらず女性を妊娠・出産させる行為は、女性が本来持つ身体的機能や、年齢と共に獲得する社会的役割やアイデンティティを捨象させ「産む機械」として捉える視点を強化する。このような認識が普及すれば、不妊女性はより強い社会的圧力を受け、当事者の苦しみはより強いものとなる。
  3. 母性イデオロギーの強化
    女性が命を危険に晒して母性を貫くことを、あたかも自明の本能的な性質とみなす本件は、多くの女性に対し、母性の名の下に更なる自己犠牲を求める危険をもたらす。
  4. 家族関係の変化
    今回の代理懐胎実施例では、母と娘の関係性のみが強調され、その他の家族関係は殆ど語られなかったが、そこには必ず精子の提供者(娘の夫)がおり、その提供者にも、実母や実父や実子など、懐胎者以外の家族関係がある。また懐胎者にも、娘以外の家族がいる場合は、そこにも家族関係が存在する。
    一般的に家族間の代理懐胎は、家族以外の他者に影響が及ばないことを根拠として正当化されがちであるが、懐胎者と依頼者以外の家族メンバーに対し、代理懐胎で利益を得る当事者たちの一方的な語り以外に信頼できる報告がなされていない現状で、家族が何ら深刻な影響を被らないという言説に根拠は存在しない。
  5. 子どもの福祉
    医療面での安全性が増し、子どもに対する医学的リスクが消失したり、法的に実子として扱われたりするなど、現在まで指摘されてきた問題点が克服されたとしても、第三者を介して生まれた事実は、実際に生まれた子に、多大な負担をもたらすことが予想される。現に日本では、法律婚の夫婦の間に非配偶者間人工授精により生まれた子たちが、成長してから自らの出自について悩む例が生じている。この現状から見ても、より親子関係の複雑化する代理懐胎において、生まれる子ども達が、深刻な悩みを抱えないと推測するのは困難である。

    以上
    代理出産を問い直す会

海外の論客

団体

  • 「代理出産を拒否するフェミニスト」。スウェーデンの女性団体。リンク

個人

  • Kajsa Ekman
    1980年ストックホルム生まれのスウェーデン人ジャーナリスト。「代理出産に反対するフェミニスト(Feminists Against Surrogacy)」のメンバー。

代理出産に関する書籍:Being and Being Bought: Prostitution, Surrogacy and the Split Self(在ることそして成らされること:売春、代理出産、自己の分裂)リンク:米国のアマゾン

代理出産に関する記事:Surrogacy, Reproductive Prostitution and Child Trafficking(代理出産、生殖売春、そして子供の売買)リンク

 

 

ニュース

【本ページで記載される日本語訳は全て粗訳ですので、正確な内容はご自身でお確かめ下さい】

日本

  • チャイナセンセーション第2部 変わる家族の形/2(その1) 代理出産、闇ビジネス:毎日新聞 
  • チャイナセンセーション第3部 国境を越える民/1(その2止) 代理出産「一族の決断」:毎日新聞 2016年6月18日 法のない日本で中国人富裕層が代理出産を実施、日本国籍を持つ子を得る。
  • 元日テレキャスター 丸岡いずみさん、代理母で長男誕生:産経ニュース 2018年1月23日 ロシアにおける商業的代理出産により男児をもうける。★注:「代理母出産」「代理出産」「代理懐胎」の表記について

ロシア

  • ロシア「非道徳的」として商業的代理出産の禁止を検討。2017年11月23日

  • 神への反抗:法整備の不在でロシアの代理出産は盛況。2017年11月28日
    生殖技術に関する法律不在の状態でロシアは「一種の生殖技術天国」、貧乏な女性たちが動員されている。代理母の報酬は14000ドル(約150万円)で、それは教員の平均年収の1年半分に相当。代理母たちの結婚生活はしばしば破綻し、夫のいない状態で子を養うために金が必要。
    ロシア正教会は激しく非難。代理出産を禁止する法律を繰り返し要求してきた。代理出産は「不自然で不道徳」「神への反抗」「契約と金、子供の押収を伴う”ハッピーファシズム”である」
    ロシア国内ではポップスター(タレント)の代理出産事例が明らかになったことを受けて議論が高まり、代理出産を完全に禁止する法案が提出されようとしている。その議員によれば、商業的代理出産は売春のようなものだ、と。
    ロシア正教会は、ポップスターの例を受け、このような例が国中に蔓延することがないように、私なら代理出産を禁止する。「悪例は伝染性がある」から。

    欧州

  • 左派フェミニストと保守的なカソリックが代理出産反対のため統合(2017年3月28日)リンク

中国

  • 第2子解禁の中国で大繁盛!村の女性の99%が従事「代理出産村」とは?2015.01.16 日刊サイゾー 女児であれば中絶し男児が生まれるまで人工授精で代理出産。また期間を定めた性交による代理出産も。つまり韓国のシバジ型、中国の典妻型それぞれの復活。

カンボジア

シンガポール

  • より多くのシンガポール人が代理出産サービスを捜す DEC 31, 2017
     ゲイのシンガポール人医師が、アメリカの代理出産で得た子(4歳)の養子縁組を却下される。シンガポールは代理出産を容認しておらず、近年、多くのカップルが海外で代理出産を実施。この数年で倍増。昨年、シンガポール人による、ある業者への問い合わせは100件を超えた。その内訳はヘテロカップル50%、ゲイカップル30%、シングル男性20%。

概況

市民圏(The Civil Sphere)

 

基本となる文献はAlexanderの下記の本。

  • Jeffery C. Alexander, 2006, “The Civil Sphere”, Oxford University Press, New York.

日本語で最も詳しい論文は下記

  • 兼子諭、2014、「公共圏論のパースペクティブの刷新ーーアレグザンダー「市民圏」論の検討をもとにーー」、『社会学評論』、65(3)、pp.360-373.

日本の現状と背景

2016年時点

普及と法整備

日本国内には1980年代から、諸外国で散発的に実施されている代理出産が報道されてきたが、マスメディアは当初それらを、単に欧米社会の特異な出来事として紹介するのみであった。 日本で本格的に代理出産が自らの問題として認識されたのは、1990年からのことである。この年、4組の日本人夫婦が米国の代理出産で子を得た事例が報道された。また翌1991年には米国での代理出産斡旋業者の事実上の支店「代理出産情報センター」(鷲見ゆき代表)が設立され、 日本人が外国で代理出産を依頼する形式がしだいに普及していく。そこでは代理母の必要性はもとより、女性達はそれを人助けとして実施しているのであり、人々はそれを科学の恩恵として享受すべきであるという、米国流の代理出産解釈が繰り返し主張された。

代理出産を含む第三者の関わる生殖技術は、日本産科婦人科学会の会告により自主規制されてきたが、会告に反する行為を行う医師も出てきたことなどから、厚生労働省は1998年から第三者の関わる生殖技術について検討を開始し、2003年に代理出産は禁止すべきという提言を含 む報告書を提出した。しかしこの提言は野田聖子衆議院議員が強く反対したこともあり、報告書に基づいた法制度はいまだ実現に至っていない。

一方、厚生労働省が検討を重ねていた2001年に、長野県の産婦人科医が国内初の代理出産を行ったことを公表する中、タレント夫妻が代理出産依頼のため渡米すると、代理出産をめぐる米国流の言説、つまり「女性同士の助け合い」「科学の恩恵」という概念がメディアを通じて頻繁に主張され、人々の代理出産に対する認識は、肯定的なものへと大きく変化していった。たとえば2006年には柳沢厚生労働相(当時)が、変化しつつある世論を背景に、厚生労働省の報告書にはこだわらず、代理出産を容認する法整備の可能性に言及している。また政府は日 本学術会議に対し代理出産についての審議を依頼し、2008年に日本学術会議対外報告が公表されるが、そこでは代理出産を「原則として禁止」するも、「試行として実施する」という結論を出し、厳密に禁止を求めるものとはならなかった。

近年では、2014年に自民党プロジェクト・チームが、代理出産と卵子提供を可能とする「生殖補助医療法案」を作成している。2015年6月には自民党の法務.厚生労働合同部会において法案骨子が了承、さらに2016年3月には法案骨子に基づいた民法の特例法案(卵子提供や代理出産では産んだ女性と母とする等の内容)も了承された。

拡大する市場

代理出産を制限する法律を持たない日本人にとって、それは資金さえあれば誰もが利用可能な便利なサービスとなっている。そこに年齢も性別も関係しない。2008年には、独身の日本人男性がネパール人女性からの提供卵子を用いてインド人女性に代理出産をさせて子をもうけたものの、子を日本に連れ帰ることができない問題が生じた(マンジ事件)。2014年にも、日本人男性がタイ人の代理母を用い、19人の子をもうけたことが報道された。(赤ちゃん工場事件)。また高齢の独身女性が外国で卵子と精子を購入のうえ、代理母に妊娠を依頼し、生まれた子どもを日本に持ち帰った事例もある。

さらに近年では、法律不在の日本が、代理母の供給地として注目されはじめている。2016年には日本国内で、日本人を含め経済的に困難を抱える女性たちが、中国人依頼者の代理母に従事している事実が判明した。これまで日本人は主に外国で代理出産を実施し、現地で国際的な問題を引き起こしてきたが、近年では日本が逆の立場に置かれつつある。