2017年12月現在
法律
ロシアでは、1995年に採択された家族法51条と53条で代理出産に関する言及がなされ、代理母の同意によって、「みなし親」(intended parents)は、出生証明書に記載されることが定められた。また最新の法では、新健康管理法の55条(new health care bill, article 55)で代理出産を含めた生殖補助技術(ART)と代理出産の利用について定めている。この新健康管理法を含め、ロシアのこれまでの法律は、有償・無償の別なく代理出産の実施は合法である。
近況
ロシアはかねてからヨーロッパ在住者の生殖アウトソーシング先として有名であった。近年になり、インドやタイ、ネパールなど、アメリカ人の主なアウトソーシング先であったアジア各国が代理出産を禁止したことに伴い、ロシアやウクライナ、ジョージアなど東欧の国々が、アメリカ人も対象とした、世界的な生殖アウトソーシングの場として知られるようになっている。1
ロシアの代理母が受け取る報酬は、ロシアの平均的な教員の1年半分に相当し、金銭面で動機づけられたロシアの貧困女性が大挙して志願している。それは表面上は「同意」でありながらも、女性たちが「喜んで他人に身体を貸す」ことの「経済的な強制」だと問題視している。2
この現状に対し、かねてからロシアのキリスト教信者の殆どが属するロシア正教会は、2013年には代理出産を「神への反抗」、「幸せファシズム」などと強く批判しており、同年に議会でも禁止法案が検討されてきた。3 とりわけ商業的代理出産は厳しく批判されている。2014年にロシア連邦議会下院「家族・女性・子供委員会」委員長は、部分的に代理出産を容認するものの、商業的代理出産は禁止すべきとの見解を示している。
代理出産の禁止を求める議論は2017年3月に再燃し、禁止法が再検討され、4 2017年11月には、代理出産をロシア国内で禁止されている売春に例えた上で、Anton Belyakov上院議員が禁止法案を提出した。5、6
*付記
2018年1月23日に放送されたTV番組『ミヤネ屋』や、雑誌『婦人公論』2018年2月13日号では、丸岡氏は代理母がクリスチャンである事に言及し、宗教観ゆえに代理母になったことを暗示しているが、ロシア人代理母がクリスチャンであることは、彼女が宗教的理由から代理母を引き受けることを説明する根拠とはならない。
ロシアのクリスチャンの96%以上を占めるロシア正教会は、代理出産そのものを強く批判しており、政府に禁止を求めている。またロシアのクリスチャンには1.6%のカトリックも含まれるが、周知の様にカトリックは、人工授精はもちろんあらゆる生殖技術を、長らく批判し続けている。近年では、体外受精を発明したエドワーズ博士へのノーベル賞授与に対し、ローマ教皇が不快感を示したことが記憶に新しい。
1 https://www.huffingtonpost.com/entry/surrogacy-ukraine-russia-georgia-czech-republic_us_595fa776e4b02e9bdb0c2b47 (2018年2月24日訪問)
2 ‘Mutiny against God’: Surrogacy in Russia thrives thanks to lack of regulation, published on Nov 28, 2017, https://www.lifesitenews.com/news/mutiny-against-god-surrogacy-in-russia-thrives-thanks-to-lack-of-regulation (2018年1月31日訪問)
3 Russian Lawmaker Proposes Ban on Commercial Surrogate Motherhood ”The Moscow times”, issued on April 24 2014. https://themoscowtimes.com/news/russian-lawmaker-proposes-ban-on-commercial-surrogate-motherhood-34637 (2018年1月31日訪問)
4 Bill banning surrogacy reaches Russian lower house of parliament published on March 27, 2017. http://www.rapsinews.com/legislation_news/20170327/278106535.html
(2018年1月31日訪問)
5 Russia Considers Ban on ‘Immoral’ Commercial Surrogacy Industry, published on Nov. 23, 2017
https://www.newsdeeply.com/womenandgirls/articles/2017/11/23/russia-considers-ban-on-immoral-commercial-surrogacy-industry (2018年1月31日訪問)
6 Russian surrogacy, controversial and unregulated, published on 24 Nov 2017
https://www.bioedge.org/bioethics/russian-surrogacy-controversial-and-unregulated/12528 (2018年2月10日訪問)
【参考文献】
- E. Scott Sills (ed), 2016, Handbook of Gestational Surrogacy: International Clinical Practice and Policy Issues, Cambridge University Press.