第5回研究会

第13回リプロダクション研究会 共催講演会【国境を越える身体とツーリズム】

企画目的

日本においても、海外で卵子提供、精子提供、代理出産を受けるために渡航するケースが少なくないことは、周知の通りです。子を育てようとする者以外の人が関わる(第三者が関わる)生殖技術が適用される時に、制度的な差異、経済的な差異などの差異・格差が利用されています。

第13回リプロダクション研究会では、グローバル化する社会における身体や臓器の資源化、商品化について考えるために、より広い社会的コンテクスト・現況を学ぶ機会を設けたいと思います。生殖ツーリズム、移植ツーリズム、国際養子縁組など、国境を越えてやりとりされる身体・臓器、国境を越えてマッチングされる親子について、3つの講演をいただくことにしました。ツーリズムで利益を享受するのは誰か、科学技術が国益をもたらすこと、身体の部品化、「提供」や「治療」に伴う規範の圧力、親の単数性や血縁の自明視、親子・家族関係の再考など、多くの示唆が得られることと思います。

  • 日時:2011年1月22日(土)13時00分~16時30分
  • 場所:明治学院大学 白金キャンパス2号館1階 2301番教室

粟屋剛(岡山大学・医歯薬学総合研究科・生命倫理学分野/生命倫理・医事法)
アジアへの移植ツーリズム―その現実、法、倫理―

報告概要
1980年代すでに日本人患者はフィリピンで腎臓移植を受けていた(臓器売買)。これが日本人のアジアへの移植ツーリズムの始まりだと思われる。その後日本人患者は中国で死刑囚からの腎臓の移植を受け始める。本報告ではこれらフィリピン臓器売買と中国死刑囚移植に関する諸調査の結果(概要)を紹介する。そして、それらに関する法規制について述べ、さらには倫理問題を論じる。

既出論文
「臓器売買―フィリピン・ニュー・ビリビッド刑務所の事例―」『徳山大学論叢』第39号、pp.1-15、1993年
「中国における死刑囚からの臓器移植」『法律時報』第68巻第9号、pp.28-34、1996年
『人体部品ビジネス―「臓器」商品化時代の現実』講談社選書メチエ、1999年
「人体資源化・商品化と現代的人体所有権」『アソシエ』第9号、pp.101-112、2002年
「中国死刑囚移植と生命倫理 : 脳死と注射殺の組み合わせは何をもたらすか」『日中医学』 第22巻第1号, pp.10-13、2007年
「アジア諸国における生体臓器の提供・移植に関する法制」法律時報第79巻第10号(2007年)71-75頁(後、城下裕二編『生体移植と法』193-203頁(日本評論社、2009年)に収録)
「人体商品化論――人体商品化は立法によって禁止されるべきか――」『ポストゲノム社会と医事法』甲斐 克則編、信山社、pp.87-97、2009年
「生体間移植・臓器売買」甲斐克則編『レクチャー生命倫理と法』114-125頁(法律文化社、2010年)

柘植あづみ(明治学院大学・社会学部社会学科/医療人類学)
精子提供と卵子提供の比較検討(仮題)

報告概要
第三者が関わる「生殖補助技術」については、卵子や精子、代理出産などの商業的な側面が倫理的問題として指摘される。たしかに、精子や卵子の価格や、代理出産をする女性への報酬や斡旋料は市場原理によって決まり、技術を利用する者と技術を提供する者の経済格差は大きい。しかし問題はそれだけだろうか。精子と卵子の提供を比較検討しながら、身体由来の物質を提供することに関わる様々な社会的・文化的な課題を考えたい。

既出論文
「生殖技術と女性の身体のあいだ」『思想』908号、pp.181-198 2000年
「生殖技術と商品化」『アソシエ』vol.9、 pp.169-180、 2002年
「再生医療 先端技術が「受容」されるとき–ES細胞研究の事例から (特集 先端医療
–資源化する人体)」『現代思想 』30(2)、pp.76-89、2002年
「精子・卵子・胚提供による生殖補助技術と「家族」 」『家族社会学研究』15(1)、
pp.48-54、2003年
「卵子・胚・胎児の資源化―何が起きようとしているのか―」、鷲田清一・荻野美
穂・石川准・市野川容孝編『身体をめぐるレッスン2: 資源としての身体
Economy』岩波書店、2006年、
「再生医療の倫理問題(思想の言葉)」『思想』岩波書店、2008年4月
『妊娠を考える―<からだ>をめぐるポリティクス』NTT出版、2010年10月(予
定)

出口顯(島根大学・法文学部/文化人類学)
養父母になった国際養子たち――スカンジナビアの国際養子縁組におけるアイデンティティと親子関係

報告概要
スウェーデン、デンマーク、ノルウェーのスカンジナビア諸国では1960年代後半から、国際養子縁組が行われており、今日では、出生児数や人口10万に対する国際養子の割合からみると国際養子受け入れ国の上位一、二位を占めるほどである。当初戦災孤児などを救うという人道主義的立場からスタートした国際養子縁組は、現在不妊治療の代替策として定着している。国際養子の多くは、アジア・アフリカ・ラテンアメリ出身であり、そのため養父母や近隣の人々と「人種」が異なることは一目瞭然である。彼らは自らのアイデンティティについてどのように考えているのか。また養子縁組がスタートしてから40年以上経過している現在、成人した養子の中には、不妊などのため自らが国際養子の養親になる者たちも出てきている。彼らは親子関係をどのように考えているか。報告ではスライドを踏まえて、血は水よりも濃くないけれど、血を全く無視できるわけではない国際養子縁組について述べていく。

既出論文
『誕生のジェネオロジー―人工生殖と自然らしさ 』世界思想社、1999年
『臓器は「商品」か―移植される心』講談社現代新書、2001年
「商品としての身体,記号としての身体–臟器移植・アイデンティティ・想像の共同体」思想 (922), pp.83-107, 2001年
「臓器移植・贈与理論・自己自身にとって他者化する自己」『民族学研究』66(4)、pp.439-459、2002年
「ノルディック諸国の生殖医療技術への対応におけるナショナルとグローバル」,『人倫研プロジェクトNEWS LETTER』(北海道大学大学院法学研究科)2, pp.10-20、2003年
「生殖医療技術と現代家族」『死生学研究』2, pp.163-171、2003年
「スウェーデンの国際養子:その可能性と問題点」『産科と婦人科』72(10)、pp.1287-1293、2005年
「ノルウェー・スウェーデンの非匿名配偶子提供」産科と婦人科 73(7)、 pp.925-931、 2006年(共著)
「ARTの現状」『臨床産婦人科」vol.60, no.1、2006年(共著:石原理)
「国際養子縁組におけるアイデンティティの問題:スウェーデンの場合」菅原和孝編『身体資源の共有』(資源人類学9)、弘文堂、pp.295-326、2007年
「代理母:生殖と主体」春日直樹編『人類学で世界をみる』、ミネルヴァ書房、pp.59-76、2008年

【共催】
生殖テクノロジーとヘルスケアを考える研究会(科学研究費補助金:女性に親和的なテクノロジーの探究と新しいヘルスケア・システムの創造:研究代表者日比野由利)/代理出産を問い直す会