女性と女児に対する暴力に関する特別報告
国連では2025 年 10 月の第 80 回総会において、女性と女児に対する暴力に関する特別報告者により、代理出産による被害状況について報告がなされます。特別報告者の要請により、各国における代理出産の実態に関するレポートが募集されました。当会では日本の状況の説明(英語)と、中国の状況の説明(中国語)を作成のうえ、特別報告者に送付し、書類が受理されました。
報告書はこちらからご覧いただけます。
ハーグ国際私法会議(HCCH)では、事実上の越境代理出産容認をもたらす草案を作成中です。当会も参加する、ICASM(国際代理出産廃絶連合)の参加団体をはじめ、代理出産に反対する各種女性団体が、そのような内容を撤回するよう、ハーグ国際会議の委員に陳情活動が行われてきました。
当該草案のワーキング・グループには、日本国内で大学教員を務める家族法の専門家も関わっています。当会では2020年に、この大学教員の方に充て、本問題に関する問い合わせをいたしました。残念ながら先方からの返事はありませんでした。
HCCHの草案作成はそのまま続けられました。状況を打開すべく、2023年11月には各国で反対運動を行う女性たちが集い、オランダ、ハーグの事務所前にて抗議活動が行われました。
幾つかの国の委員は、事務所前の女性グループに、デモンストレーションの後で会うことが可能かもしれないとの情報が得られたものの、残念ながらそれは実現しませんでした。当日その場に集いデモンストレーションを行った各団体の代表らの原稿は、ICASMにより、後日、国連の関係者に送付されました。
関係するウエブサイトはICASMのこのページを参照。
当日の写真はこちらから参照できます。
去る2020年12月7日第203回臨時国会にて「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」が成立した。
当会は、法案の審議前から要望書(PDFのリンク)を作成、国会関係者に送付してきた。当会以外にも、当事者団体や女性団体、障害者団体など、諸団体が法案に対する懸念や法文上の問題点を示し、人の命に関わる本法案に関する、十分な議論とそれを反映させた法文改善を要求してきた。しかしながら、それら国民から寄せられた懸念は顧みられることなく、本法案は参議院法務委員会で2時間20分、衆議院法務委員会で2時間30分と、極めて短時間の審議を経たのちに成立した。
このように国民の声を無視して強行された、非民主的な立法過程に関して、国会関係者は猛省すべきである。そして本法律によって今後本邦にもたらされる社会問題に対し、当会は強い憂慮の念を抱いている。以下、本法律が持つ問題と、本法律による不備がもたらすであろう将来的な問題について説明する。
以上
去る2012年6月10日付け毎日新聞に「代理出産 容認を検討 自民議員有志が法案素案」との記事が掲載された。 これによれば、「卵子提供や代理出産など第三者がかかわる生殖補助医療について、自民党の議員有志がこれらを条件付きで容認する内容の法案の素案をまとめた」とあり、同法律素案(以下:素案)の内容には「提供された精子、卵子、受精卵を使った体外受精を認める」うえ、代理出産に関して「子宮がないなど医学的に妊娠能力のない夫婦に限り、家庭裁判所の許可を得た上で実施する」ことなどが含まれるとされる。本素案に関し、メディアでの公表後5ヶ月を経過した現時点でも素案が棄却されたという報告はなく、今後、仮に具体化のため推進されるとすれば大きな問題を引き起こす事態が懸念されることから、当会はこの動きに対し深い憂慮を表明する。
素案には、代理出産、卵子提供、精子提供に関して、諸外国はもちろん日本国内で積み上げられてきた議論や当事者の意見が何ら反映されていない。特に代理出産に関しては、2008年に提出された日本学術会議報告書「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題-社会的合意に向けて」が示したように、医学的問題、家族関係において生じる問題、女性を産む道具として扱う倫理的問題、人身売買、子どもの福祉など、既に数多くの問題が指摘されている。そして本声明文の後半で述べる様に、これらの問題に対し現状では何ら対策が見出されていない上、本声明文後半に示すように、報告書が提出された後も次々と新たな問題が表面化している。
このように問題が放置された中で、仮に素案のような法律が成立すれば、日本の生殖医療が混乱に陥るのみならず、今後の日本を形成する若い世代の人々の性と生殖の健康、尊厳、そして生まれる人々の人権が侵害される危険性が大きい。これらの問題意識を踏まえ、当会は、とりわけ代理出産に関して、本素案の全面的な撤回はもとより、それらの実施を全面的に禁止する法律を整備することを提言する。
以下に本結論に至った具体的な理由を説明するとともに、社会的に追いつめられている当事者に対し別の形による援助の必要性を述べる。
次に金銭授受の問題がある。素案には「営利目的の代理出産には罰則を設ける」とあるが、「無償」ならば問題はないのだろうか。無償であることを条件に代理出産を容認する国や地域でも、代理母への経費の受け渡しは認められているが、近年では、妊娠という“労働”に見合わない事を理由に、経費以外の報酬も容認するよう求める意見が生じている。事実、経費以外に「プレゼント」の形で代理母と依頼者の間に経済行為が行われており2、将来的に「無償」という条件が形骸化することは必至である。
また、そもそも依頼者と特定の関係にない第三者が「ボランティア」で妊娠を請け負う形式が想定されているのであれば、それ自体が非現実的な発想でしかない。日本では、過去に諏訪マタニティークリニックの根津医師がボランティアを募りアンケートを実施したものの、そこで示された代理母役割に応える女性は皆無であった。これらを踏まえると、日本で第三者が代理出産を実施する場合には、何らかの商業的行為として成立すると考える方が自然であろう。
このような現状において、無償に限定して容認を認めるとすれば、結果として完全な“無償”の「ボランティア」となりうる立場にある近親者(実姉妹、義姉妹、実母、義母、従姉妹等)への圧力が高まることが懸念される。特に経済的・社会的に弱い女性を対象とする行為である側面から、こうした事例の積み重ねは生体間臓器移植の事例にも増して「近親者がそれを行うべき」という規範を容易に作り出すものと考えられる。
2.「医の倫理」と「子の福祉」に反する行為として
医の側面から
代理出産は依頼夫婦の身体を治療するものではない。それゆえ第三者に実施される「身体改良」であっても「医療」ではないし、医療者は他者を人為的に妊娠させることにより、第三者の心身を危険に晒している。
日本における周産期死亡率は、技術の進歩や関係者の努力によって非常に低く抑えられているとはいえ、妊娠および出産そのものが依然として健康と生命に関し無視しがたいリスクを伴うものであり、現に米国では代理出産による死亡例も存在する3し、近年では、複数回の代理出産後、子宮破裂・子宮摘出となった事例も報告されている。4そのような医学的リスクの可能性も認知していながら代理出産を実施するのであれば、その医療者は誰の健康状態も改善しないばかりか、故意に他者の身体に危害を与え、医の倫理に明確に反する行為を実施することとなる。
とりわけ子どもの立場に立ったとき、「医の倫理」が抱える問題は深刻である。現時点で代理出産、卵子提供、胚提供など、母胎と遺伝的に繋がらない子が抱える医学的リスクについては、まだ実験的な段階でしか判明していない。すなわち現実に行われている行為は全て臨床試験という性格をもち、生まれる子どもたちは、同意のない被験者となっている。
社会的側面から
代理出産は、社会的に「子の福祉」を害する側面をもつ。代理出産の受託者が事前に「同意」したとしても、妊娠期間を通じて胎児との結びつきを感じ、出産後に子の引渡しを拒否した事例はすでに広く知られているし、代理出産によって生まれた子が依頼者夫婦の子であることを事前に定める法律を作ったとしても、実際の子の特徴(性別や障がいなどを含む)が依頼者の希望に合わなかった場合には引き取りを拒否したり、事実上養育を放棄することも考えられる。現に外国にはすでにそのようなケースが存在し5、それらが日本でのみ生じない保証はどこにもない。.
3.追い詰められた依頼者たちへの心理的・制度的援助の必要性
上記の理由により、代理出産はいかなる形態でも社会として正当化・合理化されえず、禁止されるべきである。もちろん、それぞれの人が「子どもが欲しい」という欲求(子ども願望)を抱くことは、社会的・一般的に是認されるものであるが、そうした願望は、あらゆる限度が取り払われてしまうほどに膨張する場合もある。技術的に可能でさえあれば、どれほどのリスクがあろうとも、どれほど費用がかかろうとも、どのような方法によろうとも「自分(たち)の」子どもを得たい、そうした願望に支配されてしまうような場合には、生殖医療を用いるに先だって心理的および社会的なサポートが必要とされる。近年では、このように代理出産しか救われる道はないと思わせてしまうような社会、家族概念のあり方が問題である事実も、広く認識されるようになっている。
それゆえ本会は、代理出産に対する、より抜本的な解決手段として、その禁止を求めることに加え、代理出産の実施を願うほど追い詰められた人々に対する心理的・制度的援助(心理社会的相談、グリーフワーク、養親・里親制度へのアクセス等)の整備についても検討されるべきと考えているそのような援助の中で、当事者たちが閉じられた価値観に追いつめられることなく、パートナーと共に生きる生活について考えたり、養子を迎えたりすることなど、より現実的な選択肢を早くから検討する手助けをすることも可能となろう。
現在のように、追い詰められた当事者に対して、不妊治療現場の医療者だけに判断をゆだねるには限界がある。子ども願望をめぐるこのような強い感情の存在を前に、今後は産科医や看護師だけでなく、精神科医や臨床心理専門家などの協力体制のもとで、個々の当事者に寄り添うかたちでの医療体制が提案されるべきであろう。
以上
2012年11月7日
代理出産を問い直す会
去る2018年1月23日に、マス・メディアにおいてアナウンサーの丸岡いずみ氏と夫の有村昆氏が、ロシア国内で商業的代理出産を依頼し、代理母が男児を出産したことが報じられた。
この代理出産依頼は、丸岡いずみ氏らによる個人的な行為であり、それ自体は本会の関与するところではない。しかしながら本件を扱う報道の一部は、丸岡氏の代理出産依頼を、あたかも「美談」あるいは「望ましい行為」であるかのように伝えており、本行為が社会的な議論の的となっている現状を考えると、配慮に欠いた報道のあり方には、懸念を抱かざるを得ない。以下にその具体的な背景を説明し、主にTV番組『ミヤネ屋』を例に、こうした報道がもたらす問題を指摘する。
丸岡いずみ氏らの実施した、「生殖アウトソーシング」と呼ばれる「商業的代理出産」は、実施場所であるロシア国内でも批判の声があがっており、昨年末には禁止法案が提出されている。(リンク:ロシアの状況)またロシアに関わらず、他国の女性を利用する「生殖アウトソーシング」とよばれる方法は、女性への「暴力」「人権侵害」として国際的に問題視されている。研究者はもちろん、女性団体や市民団体を中心に、代理出産の世界的な禁止を求める国際的キャンペーンが実施されており、1 近年では国連もこの問題を取り上げている。2
日本国内では、「生殖アウトソーシング」の形式はもちろん、「代理出産」という方法自体が、社会的側面はもちろん、医学的にも危険を伴うことから、医療者や法曹を中心に長らく問題視されてきた。2008年には学術専門家たちが、代理出産を原則的に禁止すべきとの報告書を提出している。3
このような現実があるにも関わらず、公益性を重視すべき大手マス・メディアが、本行為が惹起する深刻な問題に触れず、あたかも「美談」であるかのように論じれば、日本国内の視聴者に、代理出産に対する誤解を与えかねない。
とりわけ実際に不妊治療で悩む女性にとって、その誤解は深刻である。代理出産は、不妊女性の「治療」ではなく、代理母と依頼者の結ぶ「契約」である。(リンク:代理出産の歴史)しかしマス・メディアが、代理出産を不妊治療の延長として論じる報道を続ければ、不妊で苦しむ女性に、代理出産を最終的な「医学的治療」と位置づける、誤ったメッセージを伝えることになる。
上述の問題意識に照らしあわせると、2018年1月23日放送の情報番組『ミヤネ屋』は、生殖アウトソーシングによる人権侵害や、ロシア国内でそれを禁止する法案が提出された事実、また近年、アウトソーシング先となった国々が挙って禁止法を制定しつつある世界的な動きを、明らかに軽んじたものであった。それらは放送倫理・番組向上機構(BPO)が定める、「日本民間放送連盟 放送基準」の第1章(人権)、第2章(法と政治)、第6章(報道の責任)、第6章(報道の責任)、第7章(宗教)、第8章(表現上の配慮)に抵触するか、或いはそこで謳われる倫理観への配慮に著しく欠けるものである。4
上記『ミヤネ屋』放送分では、代理出産が孕む上記の問題を論じないだけでなく、視聴者が想起するであろう批判的意見を、巧みに隠蔽する演出が取られていた。そこでは、子が生まれた直後に、現地との生中継の形で、感動を伝える舞台を用意した上で、代理出産の成功に喜ぶ依頼者の姿や、渡航生殖に至る依頼者側の都合ばかりを伝え、依頼者の歓喜を強調する内容となっていた。
さらに『ミヤネ屋』では、日本の法律に関し明らかな誤報が含まれている。5 また代理出産という方法への理解が不十分なうえ、海外の法律に関しても、曖昧な表記で誤解を招きかねない表現もあり、事実確認が十分に行われていない。6
本会は、上記放送のように、代理出産がもたらす人権問題や国際的な視点、または宗教団体の公式見解を考慮しないばかりか、生まれた人の存在を利用する、政治的に恣意性の高い報道を、公共性の求められる地上放送が実施した事実、さらにそれらを法律に関する誤まった理解のもとに伝えた事実を強く批判する。そして、丸岡いずみ氏の事例に限らず、世界の様々な場所で実施されている「生殖アウトソーシング」に対し、今後も同様の報道が繰り返されることに、深い憂慮の念を示している。
以上
2018年3月20日
代理出産を問い直す会
注1:たとえば、2015年に始まったキャンペーン「STOP SURROGACY NOW」(英文。日本語ページあり)では代理出産の禁止を求めて国際的な人権運動が展開されている。本キャンペーンには、様々な国々の研究者やNPO団体はもとより、代理母経験者や生まれた人も参加している。
注2:国連における報告内容の映像はこのリンクから閲覧可能である。
注3:無償の場合を含め、代理出産のもたらす社会的・科学的問題については日本学術会議報告書に詳細が示されている。とりわけ医学的側面については、代理出産に限らず、第三者の卵子を用いた妊娠が引き起こす問題が指摘されている。(日本では、このようなニュースが報じられている。また研究結果を参照した数字はこちらのニュースに記載。妊娠する女性の年齢によらず、医学的リスクは上昇する。)
注4:各章に関する具体的な論点は以下の通りである。
「第1章 人権」第4項「人身売買および売春・買春は肯定的に取り扱わない。」
代理出産は、一部の地域で合法化されている米国でも、人身売買および売春として根強い批判が存在する上、ロシア国内では、国会議員が「売春」と同列の行為として批判し禁止法を提出している。当事国で「人身売買」あるいは「売春まがい」と論じられる行為を、一方的に美談として伝える報道は、著しく見識に欠けるものである。
「第2章 法と政治」第8項「国の機関が審理している問題については慎重に取り扱い、係争中の問題はその審理を妨げないように注意する。」
自民党は党内にPTを設けて生殖技術の法制化を検討しており、当該番組でもその法案に関する言及があった。しかし2014年にPTが提示した法案は、一部の無償代理出産は容認するも、対価の生じる代理出産は刑罰をもって処する内容である。この法案は自民党内でも異論があり集約には至らず、2016年に自民党部会が了承したのは法案そのものではなく、付随する「民法の特例法案」であり、これは代理出産の容認とは無関係の内容である(たとえばこのリンク先を参照)。
それにもかかわらず、ミヤネ屋は、あたかも当該法案が通れば(あるいは将来的には)、今回丸岡氏の実施した「商業的代理出産」も日本で合法化されるかのように表現している。視聴者のミスリードを誘う、軽薄なコメントである。
「第6章 報道の責任」第34項「取材・編集にあたっては、一方に偏るなど、視聴者に誤解を与えないように注意する。」
上記で説明したように、本件は世界的な社会問題に対し、明らかに、その方法による利益供与者(依頼者や斡旋業者)の一方的な見解しか示しておらず、視聴者に誤解を与える。
「第7章 宗教」第41項「宗教を取り上げる際は、客観的事実を無視したり、科学を否定する内容にならないよう留意する。」
本事例で、丸岡いずみ氏は、代理母がクリスチャンである事により、その宗教的意義から代理出産を引き受けたかのように説明していた。しかしロシアのクリスチャンの96%以上が所属するロシア正教会は、かねてから代理出産を極めて強い言葉で批判し、政府に禁止を求めている。番組では、丸岡いずみ氏の客観的な根拠に欠ける説明を、何ら精査せずに論じている。
「第8章 表現上の配慮」第47項「社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、できるだけ多くの角度から論じなければならない。」
世界的な批判はもとより、日本国内で長らく議論が続く「代理出産」という方法の置かれた状況を考えると、本番組は明らかに一面的な意見しか伝えていない。
同章第9項「国際親善を害するおそれのある問題は、その取り扱いに注意する」との関連
ロシア国内で批判が高まり、禁止法案が提出されている最中に、ロシアの世論を無視する形での本報道内容は、ロシアの世論を無視した身勝手なものとなりかねない。かつて日本人男性がインドで代理出産を実施し国際問題へと発展した事例(マンジ事件)や、タイで大量に代理出産を実施した男性がインターポールの捜査を受けた事例(「赤ちゃん工場」事件)を考慮すると、国際的な批判を引き起こしかねない本事例は、より慎重に扱うべきであった。
注5:ミヤネ屋による日本の法律に関する報道内容は、次の点で事実と異なる。
注6:BPOに明文化された基準とは別に、報道の正確性という見地から、ミヤネ屋で用いられた資料には以下の問題が存在する。
<付記>
丸岡いずみ氏の代理出産に関する報道では、「代理母出産」の表記が用いられているが、本会では「代理出産」として表記している。その理由はこのリンク先を参照されたい。